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春雷に君
第1章 どうかしている

「俺なら、一人で藤崎のこと満足させるけどな」

市崎くんが自信ありげに口角を上げる。

「ということで、試してみない?」

「……?」

「藤崎の条件は言わなくていいから、試して判断してみてよ。もし俺がその条件をクリアできたら、セフレは俺一人でいいんじゃない?」

――試すって……やっぱり、そういうこと!?

とんでもない提案をされている気もするけど、確かに、一人でまかなえるならそれに越したことはない。

「一人を相手に一度で満足できるなら、それが一番よくない?」

「そう……かも」

まるで暗示をかけられたように素直にうなずくと、市崎くんはにこっと笑う。

「藤崎は明日、仕事?」

「ううん、休み」

セフレと会うのは決まって休みの前日。
時間を気にしなくていいし、たとえハメを外したとしても翌日が休みなら問題なし。

「何か予定あったりする?」

「いや、特には……」

「それなら、ちょうどいいね。俺も明日休みだし」

「ちょうどいい……?」

市崎くんがソファーから腰を上げる。
困惑している私の腕を掴み、ベッドのほうへ引いていく。

――え……えっ。

「はい、座って」

「いや、あの――……っ!」

流れるようにベッドに座らされ、隣に腰を下ろした市崎くんに抱きしめられた。
その瞬間に感じる市崎くんの体温とにおい。
あったかくて、せっけんのようなやわらかいにおいがした。

――いいにおい……。

市崎くんに対する嫌悪感はない。
そもそも、いくら話したいと言われたからってカフェ代わりにラブホテルに入った時点で、嫌悪感を抱く可能性は低かった。

いくら同級生でも、なんとも思ってない相手とラブホテルに入ったりしない。
ということは冗談っぽくラブホテルに入るかと提案した時点で、市崎くんと ””そういう流れ”” になっても構わない。と私は判断していたのだ。

――試す……だけなら……。

顔がいい市崎くんに抱いてもらえるなんてこんなチャンス、次はいつ訪れるかわからない。

実はセフレのAくんもEくんも顔を優先で選んだから、二人とも俗に言うイケメン。
だけど、市崎くんを目の前にしたら二人の顔がかすんでしまう。
そんな市崎くんに抱きしめられている状況にどうしようもなくムラムラしていた。

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