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花の香りに酔う如く
第13章 カサブランカに惑う①〜沙羅
翌日、家元先生の奥様から珍しく電話があった。

相談したいことがあるから、
週末のお稽古の時に、
前日から来るか、翌日まで残るかして欲しいという内容だった。

勿論、律さんにも来てもらいたいけど、
沙羅ちゃんに相談したいことがメインだと言われてしまった。


困惑しながら律さんにそのことを伝えると、
電話を代わった律さんが言葉少なに頷きながら相槌を打っていた。



金曜日の仕事を休ませて貰うことにして、
私だけ一足早く木曜日に実家に立ち寄ってから家元先生のお寺に行った。


毎週土曜日にはお茶とお花のお稽古を続けていたけど、
何もない日に行くのは滅多にないことだった。



「大切な話は律が来てから」と前置きされて話された内容も、
私にとってはとても大切というか、
責任が重いことだった。


家元先生が体調を崩されているので、
茶道のお教室で代わりに指導してもらえないかという内容だった。


「勿論、私もお手伝いするけど、
沙羅ちゃんが一番、家元通りの所作が出来るし、
覚えも良いから何でも教えられるでしょう?」と、
奥様が笑う。


「私なんかでは、とても…」と言っても、

「20年お稽古に通っているのよ?
しかも、ほぼ、毎週きちんと。
こんなに続いている方、
なかなか居ないもの」と、
奥様は重ねて言う。


「でもね。
出来たら金曜と土曜の2日、
来て欲しくて。
お仕事の方、調整出来るかしら?」

「今は月水金の勤務なので、
曜日を変更いただけるか、
相談してみますね?」


「すまないね。
ちょっと手が言うことを聞かなくてな。
細かいことが出来ないんだ」と、
家元先生はそっと笑った。


「あの…。
慧お兄様は?
お兄様もお稽古、されてましたから…」
と言うと、
少し困ったような顔をして、
口を閉ざしてしまう。


「その話は、明日、律が来てからにしようか?」と言われて、
話は終わった。


その日は実家に戻って久し振りに夕食をしてのんびりして、
翌日は目立たない着物でお寺に向かって、
家元先生の代わりというより、
補佐をする感じでお稽古をつけるのを手伝った。



そして、その翌日、
律さんと水野のお義父様も車で来てくださって、
お稽古が一通り終わった後、
思いもよらない話を聞かされることになった。
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