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花の香りに酔う如く
第13章 カサブランカに惑う①〜沙羅
「沙羅ちゃんに後々、
家元を継承して貰いたい」


家元先生からそう言われて、
私はポカンとして固まってしまった後、
隣に座る律さんの顔を見上げる。


「ひとまず、代稽古して貰って、
秋の理事会で承認受けて、
来年の初煮(初釜)の時に副家元としてお披露目したいな」と、
とても簡単に話をする。


「あの…。
慧お兄様は?」と、
震える声で言うと、
家元先生の隣に座る慧お兄様は、
とても静かな顔で、
「本山に入ることになって…」と言う。


「えっ?」


「それもあって、
私は家元としてより、
寺の仕事をしなければいけなくてな」と、
家元先生は笑う。


「本山に入るって…。
お義姉さんは?」と、律さんが問い掛けると、

「離婚したんだ」と慧お兄様は言った。


「えっ?」と声が出てしまう。


「寺のお金で贅沢なモノを買うのは目を潰れたけど、
ホストクラブで散財するのは我慢出来なかった。
それを、僕のせいだって言われてね」と言う慧お兄様を見ていると、
涙が出てしまう。


「そんな…。
酷い…」


「熨斗をつけて実家に返したよ。
そもそも、見合いで、
そんなに好きじゃなかったのかな。
その点は、僕のせいかもしれないけどね」と小さく笑った。


「律が羨ましいよ。
可愛い沙羅ちゃんをお嫁さんに出来たんだからね?」と続けるけど、
私は涙が止まらない。


「それでね。
お願いがあるの」と、
家元の奥様が言った。


「律と沙羅ちゃんに男の子が出来たら…。
次男さんをうちの養子にしたいの。
勿論、2人が良ければだし、
その子が大きくなってからの話だから、
普通に育ててくれて構わないの」


律さんの顔を見ると、
律さんは優しく涙をハンカチで拭ってくれて、
「急な話だから…」と言った。
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