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花の香りに酔う如く
第18章 伽羅の香りに包まれて②〜慧
沙羅ちゃんが幼稚園の頃には、
僕は高校生になっていたけど、

「お兄ちゃま」と言いながら、
僕のことを探してにっこりされると、
教科書を放り出してでも一緒に居たいくらい可愛いくて、

「お兄ちゃまのお嫁さんになる」と言われると、
本当に嬉しかったのを今でも覚えている。


だから、大学を出て本山での修行が終わって実家に戻った後に、
見合いというか、親の寺同士の付き合いのある寺から嫁を貰うことになった時に、

「お兄様の嘘つき!
沙羅と結婚するって言ってたのに!」と泣かれた時は、
あまりのことに茫然として、
走って茶室から出て行く沙羅ちゃんを追い掛けることが出来なかった。



その時、僕は24歳で、
沙羅ちゃんは12歳だった。


沙羅ちゃんは本当に可愛くて大好きだったけど、
妹みたいな感じで、
女性としては見たことはなかった。

いや、女性として見ることはあったけど、
なんていうか、
物凄く悪いことをしている感じがして、
節制していたというのが正しかった。


妹に邪なことを考えているような。
ロリコンかよって自嘲するような。

なにより、ピュアで美しい沙羅ちゃんを冒涜してるような。

そのくせ、近親相姦のようで、
背徳的で、淫靡で。


そんな自分が嫌で、
余計に自分を厳しく律するようにしていたから、
涙を浮かべて走り去る沙羅ちゃんが愛おしくて、
やっぱり、あの時、
引き止めて、抱き締めていたら良かったのかとも、
今でも時々、考えることはあった。




「慧お兄様、ごめんなさい」と、
目と鼻を少し紅くして、
律に手を引かれながら戻ってきた沙羅ちゃんを見て、
沙羅ちゃんはやっぱり、妹みたいなものだから、
ずっとみんなで大切にしていこうと思って、
僕はそのまま、
寺を継ぐことを優先して、結婚することにした。
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