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花の香りに酔う如く
第3章 モッコウバラのキス①〜沙羅
取り敢えず、必修科目中心の授業の選択は終わって、
授業は休むことなく全て出席していたらあっという間にゴールデンウィークになった。

英語の授業だけは組み分けされたクラスになっているけど、
女子は2人だけで、
しかも挨拶をしたけど返事とかもしてくれないヒトで、
戸惑ってしまった。


第二外国語のクラスは更に少人数だったけど、
フランス語は付属時代からやってたし、
会話も普通に出来るから、
先生と意気投合してしまい、
クラスメイトからは更に遠くなってしまった。



その日は授業が終わって図書館に立ち寄って、
いつもより少し遅い時間に帰ろうと構内を歩いていたら、
知らない男子に声を掛けられた。


「ねえ?
1年生だよね?
お茶、しない?」


振り返ってみると、うちの大学にしては少しくだけた格好の茶髪の男子が、
私を見下ろしていた。


「えっ?
いえ、結構です」と言って歩き出そうとすると、

「良いじゃん?
なんなら、飲みに行く?」と、
私の手首を掴むので、
怖くなって振り解こうとした。


周りを見たけど、誰も近くには居ない。


「ほら?
鞄、持ってあげようか?」と、
持っていたトートバッグの持ち手を掴もうとする。


「へえ?
これ、エルメスだよね?
お嬢様なのかな?」と言われて、
震えてしまう。


「えっ?
震えてるの?
可愛いね。
そういうの、かえって興奮するよね?」



何?
この人、何を言ってるの?


少し離れた処に歩いている人が見えて、
助けを呼ぼうとするけど、
上手く声が出ない。


「ほら?
転んじゃうよ」と言いながら、羽交締めにされる。

遠くから見ると、
カップルが戯れてるように見えるのか、
歩いている人はこちらには来てくれない。


そのまま、建物の影まで引き摺られるように連れて行かれて、
壁に押し付けられて、顔を押さえられる。


「可愛い顔、してるね?
涙目になってるのも可愛いよ?」と言って、
顔を近づけてきて、
キスをしようとしてきた。


私は咄嗟に、
股間を思い切り膝蹴りして、
鞄を握り直して走り出した。


正門まで走って振り向くと、
誰も追い掛けて来ない。


私は震えながら来たタクシーに乗って、
お寺まで帰った。
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