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花の香りに酔う如く
第3章 モッコウバラのキス①〜沙羅
タクシーから降りて、走って家に入ると、
キッチンからお兄様が顔を出した。


「沙羅ちゃん、おかえり。
遅かったね…?
ん?
どうした?」と慌てて玄関まで出て来てくれる。


私は靴も脱げずに震えてへたり込んでしまった。


立たせてくれて、
靴を一つずつ、脱がせてくれる。

震えてしまって、立ってられない私を、
お兄様は抱き上げてリビングのソファに運んでくれた。



私はガタガタ震えながら、
お兄様にしがみついて泣いてしまう。


お兄様は私が落ち着くまで、
何も言わずに大きな手で背中を撫でてくれていた。





「…ん?
焦げ臭いです」と私が言うと、

「あっ!
煮物、火にかけたままだった!」とお兄様が言って、
それでもゆっくり立ち上がって、
キッチンに行って、すぐに私の横に来てくれる。



「大丈夫?
少し落ち着いたかな?」と言われて、
コクリと頷いた。



「煮物、上の方は無事だったから、
それ、食べようか?
住職は、今日は銀座に行くって言ってたから、
ご飯、要らないし」と笑う。


「ほら、うがいして、手を洗って…。
顔も洗っておいで?」と、
頭をポンポンされると、
やっと落ち着いた気持ちになって、笑うことが出来た。


部屋に戻って、
うがいと手洗いをして、
顔を見たら、
目も鼻も紅くて、不細工な顔になっていた。


部屋着に着替えてから、
ゆっくりキッチンに降りると、
お兄様がテーブルに配膳してくれていた。


慌てて手伝って、
2人でのんびり向かい合って夕食を取った。



食後に、お兄様にコーヒーを淹れて、
自分用にはココアを淹れて、ソファに並んで座った。

猫舌の私はすぐに飲めなくて、
マグカップをそっとテーブルに置くと、

「何か、あったの?」とお兄様が静かに言った。
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