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花の香りに酔う如く
第6章 クチナシの誘惑②〜律
6月になったある朝、
朝のお勤めが終わってキッチンに行ったけど、
しーんとしていた。


いつもは沙羅ちゃんがのんびり鼻歌混じりで料理をしてくれてるか、
時には、
「寝坊しちゃったから」とコーヒーにトーストとハムエッグなんかを並べていてくれてるのに、
ここに来てから初めて、
沙羅ちゃんがキッチンに居なかった。


「あれっ?」と思って、2階に上がって、
沙羅ちゃんの部屋をノックしてみるけど、
返事がない。


もう一度、ノックをしてみてから、
声を掛けてドアを開けると、
沙羅ちゃんが苦しそうにベッドの上で丸まっていた。

僕は慌てて部屋に入って、
沙羅ちゃんに声を掛けた。

真っ青を通り越して、
真っ白な顔をして、
額に縦皺を浮かべながら目を閉じていた。


救急車を呼ぼうと言って、
慌ててしまっていたら、
生理痛だと言われて、腰が砕けそうになった。


そんなに痛くて苦しいなんて、
全く知らなかった。


考えてみたら、
母さんはもう結構な年齢で、
すっかりそういうのはない年齢なのかもしれないし、
オトコばかりの家だったから、
気遣ってそういう痕跡は全く見せることはなかった。


中学から男子校だったから、
周りに女子も居なくて、
気にしたこともなかった。


薬を飲ませないと。
鎮痛剤だから、胃に何か入れた方が良いかなと思って、
キッチンに行って、
昨夜の残りのお粥があったから温めて、
梅干しを添えて、焙じ茶と一緒に運んだ。


ベッドボードを背に座って、
なんとか半分くらい食べてから、
薬を飲んで貰う。


少し頬に赤みが挿したけど、
また激痛がするみたいで、
横になって貰う。


その時、感じていた違和感の正体に気づいた。


沙羅ちゃん、部屋の中にシャワーがあるから、
下の風呂を使うことがなかった。

3ヶ月も気付いてあげれなかった。


訊くと、タイミングが判らなくてと言った。


そりゃ、他人の男が居る家で、
入浴するなんて、
なかなか難しいだろうと思った。

でも、多分、お腹とか、
温めた方が良いに決まってるし、
遠慮させてしまったことと、
それに気付かなかったことを恥じた。


「夕食の後とか、時間帯を決めて入ると良いよ。
住職にも言っておくから」と言うと、
生理痛のことは言わないで欲しいと言っていた。


「勿論だよ」と僕は笑った。
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