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花の香りに酔う如く
第1章 月下美人の夜①〜沙羅
「そんなこと、ないよ?」と言いながら、
律お兄様は私の手をそっと握ってくれた。


「沙羅ちゃん、可愛いから、
なんか、恥ずかしくて…」と言う律お兄様の耳が、
少し紅くなっていたので、
私まで顔が紅くなってしまう。


涙を指先で優しく拭うと、

「お茶室に戻ったら?
兄さん、心配してるよ?
一緒に行こうか?」と手を繋いで立ち上がってくれるので、
私はそっと頷いた。



「あっ…。
ごめんなさい。
律お兄様の制服に、
鼻水、つけちゃった」と言うと、

「良いんだよ。
沙羅ちゃんは、泣くほど兄さんのこと、
好きなんだね?」と言われて、
私はそっと頷いた。





それから2年ほどして、
更に哀しい出来事があった。


慧お兄様が、結婚することになった。

お相手は、同じ宗派のお寺の娘ということだったけど、
凄く意地悪そうな顔のヒトだった。


それと、律お兄様も大学進学と同時に、
都内の跡継ぎがいないお寺に養子に入ることになって、
そのままそちらに引っ越してしまうことになった。


慧お兄様には、
「沙羅と結婚してくれるって言ったのに、
嘘つき!!」と言うと、

「えっ?
あれ、幼稚園児の頃の話でしょう?」と笑いながら流されてしまった。


そして、律お兄様には、
その話をすると、

「沙羅ちゃんは、ずっと兄さんのこと、
好きだったもんね?」と、
少し寂しそうに笑った。


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