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縄師-Ⅱ 中・高編
第4章 針と鍼
小父は筋彫りを終え、今彫った芳恵の背中を消毒すると、今度は先端にフラップのついた乗馬鞭を取りだした。
そしてさっきの蓮の花の場所を避けて『パシンッ』という音の力加減で背中を叩きはじめた。
乗馬鞭は狙った所を打つことができ、力の加減ができる。しかもフラップのせいで皮膚表面に傷ができにくい。
芳恵はこうされることがわかっていたのか、身構えるふうでもなく「あっ ……」と声を出しながら痛みを体内に引き込んでいく。
幾度も叩かれている背中が熱を帯びて、赤くなってきた。
するとあまり色の変わらない部分があり、その差が模様となって観音菩薩に巻き付いた大蛇のすがたが浮き出てきた。
「私が前に見たのこれだ」
千鶴が囁く。
「そうか。でも、折角あんなかっこいい彫り物、なぜ見えない墨でいれるんだろ」
「私はわかる」
本当は俺もわかっていた。ただあの刺青に色をつけたらどんなに綺麗だろうと勿体ない気がしたのだ。
芳恵の求める被虐願望と、小父の芳恵が苦しむ姿を見たい加虐願望が引き合い、小父の経験から、見ようによってはただ痛みしかない秘伝と言われる『白粉彫り』を選択したのだとすれば、それはベストチョイスだと言える。
「今のあの二人に重要なのは『痛み』とか『苦しみ』の方法として、刺青があるということだ。だから両方が望んだと思う。俺達だって『ちづを虐めたい』って思ったとき、ちづが『虐めて』ということがよくあるだろ」
頭の良い千鶴は俺がそう言うとわかっていたのだ。
振り返り、声を出さずに、ニッと笑ってキスをした。
そしてさっきの蓮の花の場所を避けて『パシンッ』という音の力加減で背中を叩きはじめた。
乗馬鞭は狙った所を打つことができ、力の加減ができる。しかもフラップのせいで皮膚表面に傷ができにくい。
芳恵はこうされることがわかっていたのか、身構えるふうでもなく「あっ ……」と声を出しながら痛みを体内に引き込んでいく。
幾度も叩かれている背中が熱を帯びて、赤くなってきた。
するとあまり色の変わらない部分があり、その差が模様となって観音菩薩に巻き付いた大蛇のすがたが浮き出てきた。
「私が前に見たのこれだ」
千鶴が囁く。
「そうか。でも、折角あんなかっこいい彫り物、なぜ見えない墨でいれるんだろ」
「私はわかる」
本当は俺もわかっていた。ただあの刺青に色をつけたらどんなに綺麗だろうと勿体ない気がしたのだ。
芳恵の求める被虐願望と、小父の芳恵が苦しむ姿を見たい加虐願望が引き合い、小父の経験から、見ようによってはただ痛みしかない秘伝と言われる『白粉彫り』を選択したのだとすれば、それはベストチョイスだと言える。
「今のあの二人に重要なのは『痛み』とか『苦しみ』の方法として、刺青があるということだ。だから両方が望んだと思う。俺達だって『ちづを虐めたい』って思ったとき、ちづが『虐めて』ということがよくあるだろ」
頭の良い千鶴は俺がそう言うとわかっていたのだ。
振り返り、声を出さずに、ニッと笑ってキスをした。