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 縄師-Ⅱ 中・高編
第4章  針と鍼
  ハシゴを植え込みに隠しながら俺達はまだ一緒に居たいと思った。

 それぞれの家に帰る気分じゃない。俺は靴を持って千鶴の部屋に戻った。

 千鶴と俺は裸になって布団の中で抱き合い、余韻に浸っていた。
 頭が熱を持ち、ジンと痺れたような感じがしていた。

 技と経験に裏打ちされた、大人との圧倒的な差を知り、呆然とするしかなかった。
 俺には千鶴をあそこまで昇り詰めさせることはできない。

 それは勿論現時点でのことなのだが、そのときの俺には変な対抗意識みたいなものができていて、小父なら今のままの千鶴でも芳恵のようにできるのではないか。と、勝手にそう思い、千鶴を取られるような気がして落ち込んだ。

「まいった。俺にはとても、ちづを芳恵さんのようにはできない」

「いつも思うんだけどさ、リョウってほんとに凄いよ。天才ってこういうんだって思うの。だってさ、14や5の少年が、40過ぎの大人に勝てないって口惜しがってるって、逆にさ、父さんがリョウの年のとき、リョウみたいに女の子を悦ばすことができてたと思う? 勉強だっていつも一学年上のことやってるし。リョウは素敵だよ。だから私はいつでもリョウのものなんだよ」

 千鶴の慰め方も天才的だった。

「ねえ、そのことを実践してほしいんだけどな」

 千鶴が裁縫箱と縄を俺の前に置き、正座をして両手を前に出した。

 縛った手を頭の後ろに置く。その端末を引き下げ乳房の下で一巻き、ウエストで一巻きして止める。

 本来ならこの縄は股間からクリトリスを圧迫してウエストでとめるのだが、今回の千鶴の望みはそれではない。

 腕が上がり開いた両脇の窪に人差し指を突き立てる。
「痛いか?」
「痛い……」
 それを聞いて俺はもっと力を込める。「ウッ」と顔をしかめて泣きそうになったところで、念のために猿ぐつわを噛ませた。

 2階の角と1階の奥の夫婦の寝室。
 離れているとはいえ、深夜に大声で叫べば聞こえない距離ではない。
それに猿轡は、これから悲鳴を上げるほど責められるという暗示の小道具だ。
 千鶴のテンションが上がる。

 まち針を薬箱のイソジンで消毒する。

 人差し指で突いたところを今度はまち針で突く。チクッとした痛みで千鶴が身体を震わせたとき、俺は棘で指を傷つけて見ていた千鶴の顔を思い出した。
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