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神戸国際投資顧問会社秘話~”オフィスメイド”というご奉仕の形
第3章 オフィスメイド 森本 沙織

【第2話】
8月下旬の夕刻、御影の閑静な高級住宅街に佇む、神戸国際投資顧問会社の門柱には、ヒマラヤ杉や西洋楓の巨木に生い茂る夏葉が覆いかぶさり、夏の終わりを告げるツクツクボウシの声が響く。
小会議室では、この会社の出資8家の一つ、池田家の当主が、社長の土井と、長時間の打合せをしていた。池田家は、江戸期の早い頃に岡山藩主家から分家した家筋で、戦前まで岡山、兵庫に広大な山林を所有する大地主であったが、林業のかたわら、昭和初期に始めた競走馬の生産牧場を、戦後は大きく発展させ、今では家業の中心としている。このところ、19世紀から優秀な競走馬を数多く育成してきた、アイルランドの同族経営の厩舎との提携交渉を進めており、打合せは、先方への資金提供の方法についてのものだった。
打合せの最後に土井が締めくくった。 「池田さん。結論としては、単純に池田さんの牧場会社から先方に出資するよりは 、欧州から日本に競走馬を輸出する名目のペーパーカンパニーをオランダに設立して、その新会社からの出資にする方がいいでしょう。スイスの投資銀行にある池田家の口座から、まずはオランダの新会社に送金して、そこから先方に資金提供するわけです。そうすれば、新会社が受け取る配当利益には、オランダの法人税が免除される制度があります。万が一、事業で損失が出たり、為替変動があっても、池田さんの会社自体のリスクはありませんしね。」

