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第3章 オフィスメイド　森本　沙織

　　　　　　　　　
　翌日、昼前に、交渉相手のマクウェイン卿が、顧問弁護士を帯同して、池田の部屋を尋ねてきた。１９世紀から同族経営で続いてきたマクウェイン厩舎は、ダブリン西方、車で１時間ほどのキルデア近郊にあり、英国やフランスの重賞レースの優勝馬を何頭も輩出してきた。近年、種牡馬の輸出事業を拡大しようと、日本での提携先を捜す中で、池田のトリニティー・カレッジ留学中の友人である地元の獣医師からの紹介を受け、交渉を続けてきた。

　今回は、最終的に、輸出事業拡大のための資金として、池田側が提供する具体的な金額と、その見返りとして、池田の会社が専属的に、日本向けに取り扱う種牡馬の頭数や引渡しスケジュールを決める交渉だった。細かい契約条件まで詰めるため、パーラールームの重厚なダイニングテーブルを挟んだ交渉は４日間続いたが、双方で納得のいく合意に達した。