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 縄師-Ⅲ 小父とM女。
第3章  芳恵
  俺の名は田村政数 リョウの遠い親戚筋だが叔父でも伯父でもないのでリョウは小父さんと呼んでいる。
 そう。近所の小父さんと同じって訳だが、俺はリョウの父親を兄貴と呼んでるから、不自然なことは何も無い。

 それによく言うだろ。遠くの親より近くの他人……だったかな。兎に角俺達は昔からうまがあうってのか、仲がよかった。

 俺と芳恵のことだが……。
 
 師から譲り受けた工房に、芳恵が訪れたときの様子は前のページで書いたとおりだ。

「女性専用で凄く上手と聞きました」

 あの日、幽霊かと見間違う成りで来た芳恵は古びた彫り幽の工房に似合いすぎていた。

「それは残念でしたね。師匠の彫り幽はもういないんですよ。これが最後の仕事でしてね」

 俺はよし乃の写真を見せた。

 女はその色彩の鮮やかさ、構図の見事さ、菩薩の表情の優しさに感嘆の声を上げる。

「これはあなたも?」

「いや、俺は景色だけで。菩薩は師匠なんですよ」

「では、表情のない虎とかライオンなら大丈夫でしょうか?」

「ライオンは見たことが無いな」

 俺は芳恵に先ず額(図柄)の大きさを決めさせて、俺が自信を持って彫れる図柄の見本を見せた。それで大体の金額を示して、支払が可能かどうかを確かめる。

 途中で金が続かなくなり中途半端で終わることが無いようにだ。
 
 途中で終わる要素がもう一つある。痛さに我慢ができなくなるケースだ。もっともうちの客にはそんな者は一人もいない。

 だが芳恵はその説明をしたとき、どれ位痛いのか試しに墨は入れず針だけで刺してみて欲しいと言って着物を脱いだ。

 希望の図柄は大蛇と菩薩で、背中の菩薩を巻いた大蛇が
胸を巻き、恥骨で鎌首を持ち上げて挿入する男根を呑み込もうとする大胆な構図だ。

 すると、まず脇腹、次に乳首がもっとも痛さを感じる場所ということになる。

 もうひとつ大事なことだか゛身体の前、腹部に刺青をする者はあまりいない。

 それは痛さのせいもあるが、皮膚の変化が大きいためだ。乳房は垂れるし、腹は膨らむ。そうなったらみられたもんじゃない。

 芳恵には欠かさずジムに行く必要を説いた。
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