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 縄師-Ⅲ 小父とM女。
第3章  芳恵
 芳恵は、陶酔状態で涎を垂れ流しているが、脳の命令を遮断しなければ根本治療にならない。それには神経を別の感覚に繋ぎ直す必要があった。
 俺は鍼の先で芳恵の背中を撫で、所どころ刺して感度を上げていった。

 手で撫でると、『ヒッ』と叫んで腰を震わせる。すると鍼が揺れて別の快感が現れる。 「アッ」と息を吐いて膝を立て、四つん這いになりかける。

「駄目だよ奥さん。腰を浮かすと大事なところが後ろから丸見えになる」

「あ……でも手足はやり場が無くて勝手に動くんです。あれで……」と言って寝台の隅にある鉄輪と革のベルトを目で示す。

 彫りに入る前に縛ってほしいという女性はこの工房では多い。

 図柄を身体に書き写すとき、絵筆で感じてしまい、じっとしていられなくなるからとか、縛られて痛くされたいというのが理由だ。
 
 裸体にした女性の手首を前で縛り、その手首を頭の後ろに置かせる。
 そして上腕と口を一緒に縛ると脇が晒されて被虐感が煽られる。

 それでもそんな姿にさせてもというか、させるからというか。女性客が望んだのが師が存命中の工房だった。
 
「この前来たとき、私のことを不感症じゃないと仰有ったでしょう」

「ああ。言った」

「何故そう思われました?」

「あんた、針を刺してる最中に濡れただろう。ここには縛られて針で刺されるだけのために来る女性が何人もいるから、すぐ判る」

 芳恵の頬が薄いピンクになる。

「じゃあ、私を感じさせてオーガズムっていうのかな。それにしてくれたらたら、できる範囲のお望みのものを進呈するけど、どう?」

 余りに軽やかな、まるで「肩を叩いてくれたらお駄賃を……」とでも言っているような口調に、思わず「乗った」と口が滑った。

「そのかわり、できなかったら刺青の料金はタダですよ」

「解った。俺もあんたが言ったように『なさりたいようになさって』いいんだな」

 頷く芳恵に
「本当は鞭で叩いて躾けたいとこだがな。だけど、それでその肌に傷が付いたら元も子もなくなるからな」
 軽いジョークを言う。
「おおこわ。でもいつか打たれてみたい気がします」

 芳恵のM性が開こうとしていることを俺は確信した。 
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