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 縄師-Ⅲ 小父とM女。
第2章   彫り師、幽齋(ゆうさい) 
  彫り師、幽齋(ゆうさい)をひと言で言い表す言葉は無い。

 花は花弁から葉脈まで描く精密描写を得意とし、動物はデフォルメした猛々しさを描く。

 菩薩の顔は慈愛に満ち、彫りを望んだ女性の色気までも感じさせる。

 その図柄と色彩を見れば、天才と評することを誰もが認め、意を唱える者はいないだろう。

だが、森の中の川沿いに建つ、一見あやかしが住みそうな工房『彫り幽』にはいつも狂気が漂い、異様な雰囲気に包まれている。
 
ひとたび契約を交わしたとたん、幽齋が持つ何本もの針は女を拷問する凶器になり、身動きできぬように拘束された女性は泣き、悲鳴と許しを請うだけの憐れな囚人でしかなくなる。

「やめて」という要望など、客の発する言葉は全て無視される。彼女らはすでに客ではなく囚人なのだ。

 休憩などはないく一気呵成、師が針を置いたときがその日の終わりという事になる。

 墨を入れられた者は、泣き叫び続けたせいで頭が白くなり、ジンジンとする針の痛みが脳内物質を分泌する。

それによって快感への変化が始まると、たまらずに次の予約を申し込む。
 
 彫り幽は客を厳選することになるが、口コミで広がる希望者は絶えない。

 施術の対象となる者は、まず女性であること。皮膚に張りがあること。耐久力があること。性の悦びを知っていること。知らなければこの工房で性感を開発されることを承諾させられる。

 この工房では、彫り師が客を選ぶのだ。
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