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欲灯
第1章 浮気男
(カラオケじゃなくてもいいって、じゃあ本当に逆ナンなのか?……それとも、美人局の類か?)

急に、感じた事のない恐怖感に駆られた啓介は、後ろ手にお尻の長財布を確認した。


しんと静まり、機械音だけが響くエレベーター内。
その気まずい空気を割るように『海辺のモデル美女』が話し掛けてきた。


「あの、名前は」

「あ、啓介です」

「ケイスケ、さん」

「はい。あの、お名前は」

「リナです」

「リナ、さん」

「はい。草かんむりに利益の利、奈良の奈で、莉奈です」

「あ、良い名前ですねえ。俺は、神の啓示とかの啓に、民事介入とかの介で、啓介。分
かりづらいですよね、あははは」

「いえいえ、良い名前ですよ」

「あ、ありがとうございます。えっと……おいくつ、ですか?」

社交辞令に近い会話が繰り返され、啓介が質問をぶつけたところでエレベーターが3階で停まった。
降りてすぐに入り口があり、数歩進むと自動ドアが開く。「いらっしゃいませー」と、甲高い女性の声が響く。

「ハタチです」

「あ、若い。俺の4つ下ですね。学生さんですか?」

「あ、フリーターです」
 
「そうなんですか、どこかで見た事あるんですよね・・・・・・美人だから、テレビかな?」
啓介はわざとらしく、大袈裟に褒めてみせた。

「いえいえ、ありがとうございます。……あ、私、ここの会員証持ってますので……」

「あ、そうですか。ありがとうございます」



(さっき初めて会った人といきなりカラオケとか……何歌えばいいんだよ……。まぁ、そこまで怪しい人でもなさそうだし……。遥、カラオケだけだから、な!)

啓介は恋人に胸中で言い訳を述べながら、黒いヒールの足音を追って行った。
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