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欲灯
第1章 浮気男
「なに、飲みます?」

薄暗い部屋の中、インターホンの側にいる啓介の言葉に、莉奈は携帯電話に触れていた親指を止めた。

「あ……啓介さんと同じでオッケーですよ」

テーブルを挟んだ向かいに座る莉奈が笑顔で応えた。



<ドリンク飲み放題は部屋を出て頂いて、先程受付をしましたカウンターの左の奥にドリンクバーがございますので、セルフサービスでお願いいたします>



「なんか、ドリンクバーがあるみたいなんだけど、行ってきます。莉奈ちゃ、莉奈さんは・・・・・・何がいいですか?」

受話器を置きながら莉奈の方へ向き直ると、莉奈は煙草を咥え、『火』を探すようにバッグの中を漁っていた。

(あ、煙草吸うんだ……似合わないなあ……)



「あ、すみません!……コーラで、お願いします」

「あ、了解です。……火、貸しますよ?」

啓介は胸のポケットに入っているジッポライターを取り出した。

「あーすみません!ありがとうございます!……林檎、ですか?かわいい!」

擦り傷だらけのシルバーに、白い線の林檎と黒い線の林檎が模られ、互いの横半分ずつを重ねるように描かれている。



「うん、白い林檎が理性。黒い林檎が本性。禁断の林檎ってやつかな」



「禁断の林檎、か・・・・・・なるほど」

啓介の言葉に感心しながら、莉奈はジッポライターを両手で持ち、蓋を開け、不慣れな手付きで点火を試みた。

「うん、でもね知ってる?禁断の果実って、林檎は西欧で言われてるだけで、東欧では葡萄やトマトだったり、キリストだとイチジクとか、ユダヤだとコムギだったりするみたいなんだよ」

啓介は自分の知識のように、会社の先輩の言葉を拝借した。

「へえ……知らなかったです!・・・・・・じゃぁ日本は?」

莉奈は、少しだけ意地悪な表情を啓介に向けながら、依然として点火と揉めていた。

「うーん……日本は、ねえ……」

啓介の脳裏には、豊満な乳房と、濡れそぼった女性器が一瞬だけ浮かんだが、不器用な莉奈の手から地面に零れ落ちた、ジッポライターの鈍い金属音で我に返った。
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