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欲灯
第5章 不倫男
「林檎ねえ・・・・・・私、苺の方が好きだな」

運転席の奈美が、様々な角度からライターを眺める。

「お気に召さないようで?」

助手席の青柳が肘掛に頬杖を突き窺う。

「そんな事はないけど。ジッポってさ、知らない? 女が男にプレゼントするもんなのよ?」

「へえ」

「知らないの? この贈り物にはちゃんと意味があるんだよ」

「なんすか」

「『私の全てをあなたに捧げます』って」

「お、なんかカッコいいっすね、さすが・・・・・・」

さすが40歳にもなると知識がありますね、と言いそうになり口を噤んだ。

「『さすが』何よぉ。ロビンくん、意地悪だなぁ」

「いえいえ、さすがナナさん、いつも博識なお方だなって」

「嫌味にしか聞こえないぞ」

そう言って奈美は青柳の頬を軽くつねり、引き寄せ、唇を重ねた。





奈美は、この青柳という男と半年ほど関係を続けている。

旦那との間に子供が出来ず、やがてセックスレスになり、表面上は夫婦として仲良くしてはいるが、旦那は浮気をするようになっていった。

恐らく、職場の女性だろう。

サービス業で、学生のアルバイトが多いと聞いた。

店長と言えども、ただの雇われサラリーマン。転勤こそないが、土日も関係なく働き続けている。と、奈美は思っている。

携帯電話を開く回数が増えた。

コーヒーの匂いに混じり、化粧品の匂いがする。

妙に優しい。

妙に饒舌。



ある日、

仕事から帰宅し、風呂も入らずにソファで寝入った旦那から香った、

メスの匂い。

避妊具の匂い。

女の勘で言うなら、十中八九、クロ。

でも、子供が出来ないという負い目も手伝い、旦那を責める事が出来なかった。

ただ、この鬱積を吐き出す術がない。



コップの水が溢れ、零れ始めた頃、友人に教わった出会い系サイトにアクセスした。


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