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鬼の哭く沼
第6章 朔月に濡れる赤
混乱する香夜の前で、動きを止めていた大蛇がぞろりと振り返る。開いていた顎は閉じられ、一拍前まで撒き散らしていた刃のごとく鋭い殺気も最早見受けられない。しゅうう、と舌を閃かせて頭を下げ、九繰へと顔を寄せた。
「……香夜、ヲ」
「承知しておる」
頷く九繰に鎌首を上げて、巨大な身体をずりずりと動かし部屋を出て行こうとする。
大蛇の口から洩れたのは、しゅうしゅうと空気の混じるしゃがれた声だ。酷く聞き取り辛い、だがその声は確かに。
「……す、おう…?」
「…………」
ぴくり。ほんの僅か、動きが止まったかのように見えた。
だが茫然とする香夜の呟きに答えは無く、問う視線から逃げるように大蛇は壁に空いた大穴から去って行った。