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鬼の哭く沼
第8章 溺れる魚

「お前は、掟を破った。掟破りには相応の罪を償わせねばならん」


それも、掟、なのだから。


「覚悟はとうに。どうぞ、御随意に」

「お前は……」


言いかけた言葉を、須王は飲み込む。そして白皙の額にかかる絹糸のように細い貴蝶の髪を慎重に指先で退ける。小振りな、白い角を愛でるように撫でた。


「お前は、美しいな。貴蝶」


毅然と須王を見上げる瞳を見つめて言う。

それは、誰よりも美しく気高くある事に拘った貴蝶にとって最高の賛辞。
だから貴蝶は艶やかに笑んでみせた。
愛した男に向けて、最高の笑顔を。


「…これより『鬼落ち』を行う」

「………」


貴蝶は何も言わない。

ただ言葉の代わりにそっと、笑みを浮かべたまま頷くように目を伏せた。









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