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鬼の哭く沼
第8章 溺れる魚
「隙有り!!」
「うひゃあ!?」
がばっと着物の襟を左右に開かれ、香夜は情けない悲鳴を上げた。
慌てて胸元の着物を押えるも時、既に遅し。
「あらあらあらあら…まあまあ。こりゃまた随分と愛されてること!」
「ゆ、夕鶴さんん~!!」
キッと真っ赤になって睨むも夕鶴はそれを軽く受け流して高らかに笑う。
夕鶴の一声に周囲の女達の視線も集まり、赤面して震える香夜に理由を察してか皆一様ににまりと頬を緩めた。
晒されたのは、胸元に散る無数の花弁。これでもかと刻まれた所有の印は着物の襟を開いただけでは見えぬ場所まできっちり、そして数多に刻まれている。
(あああ…だから嫌だったのに…!)
須王の馬鹿…!
襟をぎゅっと握り、香夜は心の中で所有印を刻んだ相手へ思いっきり八つ当たりした。
夕鶴に「双子を連れて遊びにおいで」と誘われたのは昨日。と言っても言伝を受けたのは香夜では無く風花だ。当の香夜は正直まともに動けるような状態ではなかった。それもこれも理由は一つ。
須王と結ばれたあの朝。香夜を気遣い、休ませてくれたのはその日の夕方まで。動くのは辛いだろうと須王の私室で一日を過ごした香夜は、夕餉が終わると同時にまた須王に求められたのだ。
二度目とはいえ未だ慣れぬ身体は間を置かず行われる行為に悲鳴を上げた。
もう無理だ、もう許して欲しいと泣いて懇願する香夜を離さず求め続け、幾度目か数えるのをやめた頃殆ど気を失うように香夜は眠りについた。
それが一昨日の話。
そして昨日、朝から事を起こそうとした須王を何とか部屋から追い出した香夜は実力行使に出た。
世話をする為に来てくれた風花と雪花に頼み、夕鶴へ救出依頼をかけたのだ。香夜の思惑は上手くいき、風花と雪花を連れて夕鶴を尋ねるからとようやく須王の元から脱出できた。
でなければ今頃、未だ須王の腕の中にいただろう。人と鬼の体力差には関心を通り越して呆れるしかない。
香夜をぐったりさせた張本人だが、今朝は早くから棚の仕事をしているようで夜明け前から姿が見えなかった。香夜も朝餉の後すぐに夕鶴の元を尋ねた為今日はまだ一度も会っていない。