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鬼の哭く沼
第3章 九泉楼
大きな、もう何度目なのかも知れない溜め息が口から溢れ出す。
溜め息で幸福が逃げるというのならば、とっくに香夜の身体の中から幸福なんてものは逃げ切ってしまっているに違いない。
須王に良いように弄ばれ、辱めを受けた香夜は最中に気を失ってしまった。気付けば、障子の外から明るい陽の光が差し込む朝だった。
全てが夢であればと抓った頬は痛く、捲った布団の下、白い肌に点々と残った赤い鬱血の痕が生々しく香夜を責める。
子女たるもの婚前交渉せず。
そんな古い考えを肯定しているわけではないが、それでも恋人でもない男との行為は酷く心を重くさせた。それに嫌悪を覚えなかった、自分自身には尚更。
「愛される事を受け入れろ」
須王はそう言った。
好きだ、とか付き合って欲しい、だとか、ドラマや小説に出てくる恋人同士の生温い表現ではなく。一方的に、強引に、抵抗する手段も力も無い香夜に圧倒的支配力で「愛される事」を強要した。
熱い指先や舌の湿った感触を思い出すと未だ鳥肌が立つ。それも当然。初対面の男に襲われたのだ、もっと取り乱して良い筈。それなのに、こうも落ち着いていられるのは何故か。
理由は明確。
(あの人……最後まで、しなかった)
目覚めた時、咄嗟に自身の下半身に手をやり確認したから間違いない。触れても痛みは無く、寝具に血の痕もなかった。いくら香夜に経験が無くとも、早熟な友人たちの話でそれなりの知識はある。
処女を失えば…それもあんなに大きなものに貫かれれば、とても無事ではいられない筈なのだ。破瓜の出血には個人差があると聞くが、どう考えても須王のそれを受け入れて出血が無いとは思えない。という事は必然、あの後須王は無防備に眠る香夜を手離したのだ。
意識を失った香夜の身体など、どうとでも出来ただろうに。
「一体、何がしたいんだろう…」
ぽつりと零して再び溜め息を吐けば、傍らでお手玉に興じていた双子がこてんと不思議そうに首を傾げた。