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鬼の哭く沼
第3章 九泉楼
次から次へと思う事はあるのに、最終的に行きつく先は須王の事で。また口から零れそうになった溜め息を、何とか飲み込む。
これ以上双子に心配をかけるわけにはいかない。
気分転換にと手を伸ばし、障子窓を開けた。夏の夜独特の香を含んだ空気が、とろりと流れて香夜の頬を撫でる。
陽が落ち、外は再び暗闇に沈んでいる。
昼の間に何度も覗き、見飽きた庭だが…どこからか聞えてくる和楽器の音と、賑やかな笑い声に誘われるように外を覗き込む。
香夜のいる部屋は賑やかな建物から少し離れた棟の二階にあり、建物に四方を囲まれた中庭には小さな池がある。その池の畔に何か動くものを見つけて、暗がりに目を凝らす。
池の脇に石燈籠がぽつりと一つ、立っているだけの中庭だ。その石燈籠の横に人影があった。ぼんやりと青白い光を放ち、それは池の縁へと静かに移動する。
(え、ええー…っまさか幽霊、とか…)
鬼の住まう世界だ。幽霊くらい居てもなんら不思議は無い。
恐る恐る更に目を凝らせば、人影は掲げた右手に青白い焔を纏わせていた。白っぽい着物と髪にそれが反射して、青白く光って見えただけのようだ。足は……ある。
妖である事に間違いないが、幽霊ではないと分かれば香夜の肩から力が抜けた。どららも人ならざる者だが、幽霊よりはマシ、な気がする。理由はわからない。
視線の先、人影は静かに池を眺めている。すらりとしているが、体躯はまぎれもない男のものだ。
「あんな所で何をしてるんだろう…」
この離れは須王の自室だと双子は言っていた。須王が主をしている遊郭の客が、遊女のいないこんな場所に用があるとは思えない。では一体誰が、何の目的で。
もっとしっかり見ようと身を乗り出して、障子窓に手をかける。その拍子に不注意でカタンと音が鳴ってしまい人影がこちらを見上げた。
(やば、気付かれた…っ!)
息が、詰まった。
遠目に、暗がりの中青白い光源のみ。それだけの悪条件でもわかる、恐ろしい程の美貌。夜闇に浮かび上がって見える白皙の面は驚いたように香夜を見上げ、次いで艶然と微笑んでみせた。
「………っ!!」
カッと、顔面に熱が上がる。
何だかわからないが、あの笑みは危険だ。本能でそう判断し、慌てて窓から離れようと後退る。背中に、どんっと硬いものがぶつかった。
「何をしている」