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鬼の哭く沼
第3章 九泉楼
先程の男が浮かべた艶笑が脳裏に蘇り、再び香夜の顔に熱が集まる。傾国の美女、なんて言葉があるが女でなくてもあれは国が傾くに違いない。
悶々とする香夜の背後で、ぴたりと須王の動きが止まった。ぞわり、と背筋に寒気が走る。心なしか部屋の温度が下がった気もする。唐突にたんっ!と乱暴に障子を閉めた須王は、握ったままの香夜の手首を強引に引いて抱き上げた。
「いっ…た…!」
「じたばたするな」
ぎちり、と握られた手首が痛む。顔をしかめ悲鳴を上げるが須王は手を離そうとしない。腰を支えられただけの宙に浮いた身体が不安定で、身を捩ればぎろりと睨まれた。
(な、何…何なの?!)
「雪花、風花」
「あい!」
「あい!」
「今夜はもう下がって良い。ゆっくり休め」
「え…ちょ、ま…」
(助けて雪花、風花!!)
須王の声音に何事か悟ったらしい双子が顔を見合わせる。そして。
すー……ぱたん。
聞き分けの良過ぎる双子は、行儀良くお辞儀をして襖の向こうへ消えていった。香夜の救いを求め伸ばした手は空しく空を切る。
「んんっ…!!」
ぐっと障子に身体を押し付けられ、そのまま須王に唇を奪われる。性急なそれは香夜の呼吸すら奪うようで、硬く目を閉じ身を強張らせた。閉じた唇の隙間を強引に割り、ぬるりと熱い舌が差し込まれる。口腔を弄り、探り当てた舌をきつく吸われびくりと肩が震えた。背筋に走ったのは嫌悪や恐怖とは違う、別の何か。
「っは……」
「…………」
ゆっくりと離れていく須王の唇と、香夜の唇を唾液の糸が繋ぐ。それを見て羞恥の色を浮かべる香夜の耳朶へ、顔を寄せて囁いた。
「やはりお前には遊女の素質があったようだ…俺の目の届かぬ内に、他の男に目移りか」
「どういう…っん、あ!」
「大人しい顔をして随分と気の多い」
「や、め……ぁっ」
意味がわからず、突然の須王の行為に恐慌する。つい今さっきまでの穏やかな空気は一変して、荒々しく求められる。
手首を解放し、乳房を鷲掴む。肉を揉み潰すように愛撫しながら、震える耳朶に舌を這わす。耳の縁をねっとりとなぞられ、くちゅ、と舌先が穴に差し込まれるとその直接脳に響く湿った卑猥な水音に、香夜は首を竦めて唇を噛んだ。
何故、急に。