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鬼の哭く沼
第4章 それぞれの思惑
「何を赤くなっている?…ああ、勘違いするなよ。そのみすぼらしい貧相な顔形でもこれだけ飾り立てれば見られるようにはなるという意味だ。そうでもせねば、俺のイロとして見栄も張れんだろうからな」
「………あっそう」
前言撤回。
(やっぱり嫌いだこんな鬼)
失礼千番な物言いに思わず不貞腐れたように返せば、香夜の様子を見ていた須王が小さく笑った。
(まただ…)
須王は最近ふとした瞬間に、こうして何のてらいも無い笑みを浮かべる事がある。それはほんの一瞬、けれど香夜が心拍数を上げるには十分な威力で。男らしく精悍な顔立ちで、視線は獣のようだというのに時折見せる笑みは子供の如き無邪気さを孕んでいる。その笑みに絆されそうになっている自覚がある分、忌々しい事この上無い。しかも当の本人は無意識なのだから、全く質の悪い男だ。
(だ…駄目、私が「賭け」に勝たなくちゃいけないのに)
次の瞬間には笑みを消し、また蛙と何やら話し込み始めた大きな背を瞬きもせずに見つめ再び上がってしまった体温を抑え込もうとする。
そうだ。自分が須王にくらくらしてどうする。須王を落とし、「賭け」に勝つと心に誓った筈ではないか。
(「賭け」…私が勝てば元の世界に、家に帰れる。負ければ…)
香夜はぎゅっと拳を握り、数日前の九繰との会話を思い出した。