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鬼の哭く沼
第4章 それぞれの思惑

陽の落ちかけた夕暮れ時。

暇を持て余した香夜が部屋で雪花、風花と一緒に双六で遊んでいた時の事。
ふと香夜が顔を上げた先、薄く襖が開いた隙間から白い手がひょこんと差し込まれた。現れた手は手首から先のみ。中指と薬指を親指とくっつけ、小指と人差し指がぴんと動物の耳のように立っている。影絵の「狐」をするときの手の形だ。


「………?」


手はぴょこぴょこと可愛らしい動きで香夜の注意を引く。
須王ではない。
賽を振る手を止めて怪訝に見つめていれば、香夜の視線に双子たちも後ろを振り返った。そしてぱっと表情を明るくして立ち上がり、襖の手へと駆け寄っていく。


「くくり様っ」

「様!遊びに来られたのかも」

「遊んで下さるかも!」


(くくりさま……?)


双子の反応で害の無いものだとわかると、香夜の肩から少しだけ力が抜ける。この部屋に須王と双子以外が訪れたのは初めてだ。一体誰なのだろう。視線の先、すーっと襖を開けた相手を見て「あっ」と香夜は声を上げた。
双子を両脇に纏わせ、部屋へ入ってきたのは昨日庭の池の縁に立っていた白い美人だ。昨夜同様、白い着物に藍の打掛を肩に羽織っている。決して華美な服装ではないのに、それがかえってこの男を艶麗に見せているのが不思議だ。


「改めてお目にかかる、須王の<寝子>よ」

「え…は…?」

(ねこ……?)


ぽかんと口を開けた香夜の顔をまじまじと見下ろし、美貌の男は顎を摩って一つ頷く。


「ふむ、猫は猫でも子猫か…ああ、気にするな、こちらの話じゃ」

「はあ…」

「そう警戒せずとも良いぞ、儂は決して怪しい者では無い。安心せい」


お主に少々用があってな。そう言って、香夜と向かい合うように腰を降ろし胡坐をかいた。随分と距離が近い。たじろいで少し膝を引き、そわそわと視線を泳がすと相手の笑う気配がする。顔を上げると、障子越しの夕陽を映す瞳が金色に輝いて見え、香夜は息を飲んだ。


(本当に、綺麗な男の人…)


ほう、と香夜の口から溜め息が漏れた。


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