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鬼の哭く沼
第4章 それぞれの思惑
「儂は鬼のとは腐れ縁…旧い間柄での。友人なのじゃ。故にそなたの事は奴から聞いておる。随分と彼奴に気に入られたようじゃのう」
「気に…?そんなわけ…ないと思う」
「何故じゃ?」
「………」
(何故って…)
気に入ったのならもっと丁重に扱うものだろう、普通は。思わず香夜の表情に渋い色が混じる。須王の香夜への態度は傲慢で尊大、気に入らなければ喰うと脅す、粗暴なものばかり。あれがお気に入りの扱い方だというのなら、あの男の性格は随分と捻くれているに違いない。
(ほんの少しは普通の、人間と同じかもなんて思ったけど)
ちらりと脳裏に、香夜を抱きしめ寂しそうな、縋る様な表情を浮かべた須王が過りそれを首を振って追いやる。情事の後、香夜の頭を撫でた手が優しかったようにも思えたが、それも与えられた辱めを許す理由にはならない。所詮須王は鬼だ。
これでもかと眉をしかめ俯くと、九繰の着物にしがみついていた双子がててっと香夜の元へと戻って両腕にひしとしがみつく。そして大福のようにもっちりとした頬をぷくりと膨らませて、口々に九繰へ言いつけた。
「ぬし様、ねね様をいじめるの」
「ねね様、いつも溜め息ばかり。お辛そう」
「昨夜もひどかったみたいなの。朝からねね様、お腰が痛いって!」
「…ほほう?腰が、のう」
「ちょ、雪花に風花!!」
さながら母親に父親の悪事を告げ口する子供のようだ。
だが問題はその内容で、慌てて二人の口を塞ぐ。双子の言葉に、明らかに面白がるような声音で眉を動かす九繰に、香夜は真っ赤になった。絶対にあれだ、妙な誤解をされている。
「別にいじめられてなんか無いってば!それに腰が痛いのだって、そういうんじゃなくて…」
「というと?」
「いや、その…腕から逃げようとして捻って痛めただけで…」
「ふむ、腕からとな。腰を痛める程激しかったとは…か弱き乙女に無茶をさせよって。まったくもって彼奴も悪い男よ」
「誤解です!」
「腰痛は温めるのが一番じゃぞ。折角じゃ、元凶に摩って貰うが良いかのう。須王と湯にでも入った時にじゃな…」
「だ、からっ…!」
駄目だ。人の話を全く聞いてない。