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鬼の哭く沼
第4章 それぞれの思惑
噛みつくように言えば、明らかに面白がっている様子で腕を組み口端を歪める。口付けの快楽に負けた事を恥じらう気持ちなど、須王にはばれているに違いない。それが余計に恥ずかしくて、香夜は眉頭に力を込めて皺を寄せる。
「私は、こういうキ…キスとか、誰かに見られるのは好きじゃないの!」
「では、人前とやらでなければ何をされても文句は言わんな?」
「そんな事一言も言ってないっ」
ああ言えばこう言う。そんな二人のやり取りを目をぱちくりさせて蛙が見守る。
「そうやって毛を逆立てる様は本物のようで退屈はせんが、猫ならば素直に甘えてみる事も大事だろう」
「だから、誰が猫よ…!」
「俺の、猫だろう?」
「違う!!」
くく、と低く笑って手を伸ばす。危険を感じて身構えた香夜を見つめながら、その胸元を飾る蝶についた鈴を指先でりん、と揺らした。
「よく似合っている」
「………!!」
香夜は目を見開いて固まった。今自分の耳で聞いた言葉が信じられない。
「え……」
「…………」
ぽかんと口を開けたままの香夜に、目の前の衝撃発言の主は次いで何か言おうと唇を開く。だがその唇が音を紡ぐ前に、襖の向こうから「主様」と呼ばれ舌打ちしながら立ち上がった。そうしてぽんと最後に一つ、頭に手を置いて、今行く。と答えて部屋を出て行ったのだった。