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鬼の哭く沼
第2章 宵ヶ沼
伊ノ入神社の奥、脇道を逸れ草木を分け行って進んだ山の中に、ぽつりと小さな沼が有る。
沼の名は、宵ヶ沼。
周囲総長わずか250メートル、最大水深4メートル。鬱蒼と木々の生い茂る山の中、細い獣道の先にぽっかりと現れる空間の中央。
そこに、それは有った。
人影どころか獣さえ近寄らない沼には様々な言い伝えがあり、地元の人間は決して近づこうとしない。
曰く、沼は人を招くのだそうだ。
人を招き、それを喰らう者がいる。それは特に女子供を好み、招かれた者は二度とこの世には戻っては来ない。
して、その者の正体とは如何に。
問えば、地元の人間は声を抑え、口を揃えて耳元へこう囁く。
あの沼には鬼が住むのだ、と。
言い伝えを知らぬ幼子らに、夜の寝物語として。恐れを知らぬ好奇心旺盛な旅行者へ意味あり気な戒めとして。
あの沼に近づいてはならない、招かれれば二度とは戻れぬぞ。
深緑色の水面静かにひっそりと佇むその沼を、地元の人間はこう呼ぶのだ。
黄泉ヶ沼、と。