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鬼の哭く沼
第4章 それぞれの思惑
だから寂しくないのだ、と彼女は笑う。その笑顔にうん、と頷いてまだ熱っぽく微かに赤い頬に触れた。「お揃いだね」と自分の赤い頬を差し出せば、「お揃いー」と嬉しそうな声が返る。
「うん…そうだね。私も。雪花と風花が居てくれるから、寂しくないよ。それと……須王も」
寂しさも、心細さも無くなりはしないけれど。ほんわりと暖かくなったこの胸の温度は、香夜の心に少しだけ何か別の感情を与えてくれる。
言葉の意味を理解していないだろうけれど、それでも無邪気に破顔し香夜の掌に頬を擦り寄せる愛らしい仕草に口元が緩む。そのままぐりぐりと額を擦り付けてやると、滑らかな肌の感触がしてきゃあっと嬌声が上がった。
「雪花。ありがとう」
貴蝶から庇ってくれて。笑ってくれて。いつも傍に居てくれて。
それらはすべて、この子達が生まれてきてくれなければ適わなかった事だ。
「ありがとう」
もう一度礼を言うと、少女はきょとん、と目を瞬かせ、次いで「どういたまして」と微妙に間違えた大人ぶった返事で笑った。