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鬼の哭く沼
第5章 忍び寄る影

起こしてしまっただろうかと様子を伺うも、ごそごそと首の座りを変えてまた寝息を立て始めた。嘆息し、あどけない寝顔を見つめる。無防備な愛らしい寝顔だ。

(愛らしい、だと)

自分の中に浮かんだ言葉に、須王は驚いて瞠目する。
特別容姿が優れているわけでも、性格が従順なわけでもない。物を買い与えても他の女のように喜んだりしない。初めこそ自分に怯えていたようだが最近では口の聞き方すら気易く、世話係につけた双子を味方につけて口応えする。そんな可愛げの無い小娘のどこが愛らしいなどと。

むっと眉を寄せ唇に触れていた指を頬へ滑らせる。思いっきり抓んでやろうかと思って、やめた。白い頬には、極々うっすらと引っ掻き傷が残っている。今日、貴蝶につけられたという傷だ。
あれこれと雑事に追われ香夜の元へと訪れる事の無かった須王が、この傷を目にするのは今が初めてだ。思ったよりもしっかりと残ったその痕に、赤い瞳に剣呑な色が宿った。
事の詳細は雪花と、青火から報告を受けている。貴蝶が香夜を知ったのは、その青火から情報を得てだ。貴蝶が須王の「イロ」であった時に強請られて一匹くれてやったものだが…こんな事になるのならばさっさと取り上げておけばよかったと強く思う。後悔しても今更ではあるが。
店の棚へと足を伸ばして、香夜は下級遊女達とも仲良くなったらしい。雪花に至っては、今まで以上に香夜にべったりで如何にこの娘に好意を持っているのかが丸分かりだ。風花よりも人見知りの激しい雪花が、こうも早く自分以外に懐く姿を初めて見た。余程、香夜の行為が嬉しかったのだろう。


香夜は忌子の雪花を庇い、頬を打たれ傷を負った。


凛と顔を上げてあの貴蝶に歯向かった姿を思うと胸の奥にじんと痺れに似た感覚が走る。鬼と人の間に生まれた子を忌子と呼ぶ。それは酒呑童子たる自分も同じ。
母親を殺して生まれた得た生。大きな力と引き換えに、終わる事の無い呪いを受けた身だ。そんな自分もまた、この娘は身体を張って護るのだろうか。雪花を庇った時のように。

(何を、馬鹿な事を)

自嘲し、頬にあてがった掌で傷を辿るように撫でる。すると香夜は無防備に眠る頬を緩め、ふわりと微笑んだ。その表情は一番最初に眠る香夜の頬を撫でた時の笑みと同じ、柔らかなもの。

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