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第26章 佐藤恵美との一夜

佐藤はカウンターに突っ伏すようにして、言い淀む。明らかに先ほど「美夜」と言いかけた。狩野が下調べで、佐藤と美夜の関係を疑っていなければ、気づけなかったであろう些細な間違いだが、狩野は佐藤と美夜の関係に確信を持つ。

「柊さんは佐藤さんが仕事出来るから、任せてくれるんじゃないの？」

狩野は何も知らない振りをして聞く。

「そう思ってたけど…。最近、違うのかなって…。」

「違うの…？何でそう思う…？仕事を任せてもらえなくなった？」

「ううん…。仕事は任せてもらえる…。でも、最近…呼び出しが多くて…。私が仕事出来るからじゃないのかなって思うようになって…。」

佐藤の言葉は裏事情を知らなければ、意味がよくわからないものであった。しかし、狩野にはなんとなく理解できた。

佐藤は自分の仕事ぶりが認められたと思っていたが、美夜は佐藤を愛人として見ており、その寵愛を受ける代わりに、大きな仕事を任せられているのではないか。そう佐藤は疑っているのだろう。

そう言った身体の関係ではなく、純粋に仕事の部分を評価してほしい。それが佐藤の願いなのかもしれない。

「俺は柊さんのことはよく知らないけど…。仮にも社長が好き嫌いで大事な仕事を任すことはないと思うけど？以前、一緒に働いた時の佐藤さんは安心出来るくらいだったし。佐藤さんと一緒に仕事出来て良かったと思ったよ？」

「本当に…？」

佐藤は酔って潤んだ瞳を狩野に向けてくる。そこには自信を失くし、何かに縋り付きたいような感情が浮かんでいる。

今の佐藤は誰かに認められたいのだろう。女としてではなく、仕事について。

「もっと自信持っていいと思うけどな…。荒木ともよく話してたけど、１番信頼出来るのが、佐藤さんだったから、まずは佐藤さんに話して、情報確認してからにしようとか。まぁ、佐藤さん、きれいだから親しくなりたいっていう下心もあったけど…。」

狩野は冗談めかしながら佐藤を褒める。これはお世辞ではなく本当のことだ。

「本当に…？あの頃の私を…？あんなイキッて嫌われてた私を…？」

「それは俺もそうだったし…。先輩より俺達のほうが仕事出来るぞってね…。今の佐藤さんも可愛くてきれいだけど、あの頃の佐藤さんもきれいだったよ？」

「ありがとう…。嬉しい…。なんか…久しぶりに褒めてもらえた気がする…。今の会社…女性ばかりだから…。」