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タワマン〜墜ちた女達〜
第26章 佐藤恵美との一夜
呆れたように狩野が呟くと、恵美も苦々しい表情で言う。

「今どき珍しいけど…政略結婚に近かったみたい…。旦那さんは本当は大人しくて可愛いらしい女性が好みだったらしいわ…。」

「なるほどね…。柊さん…かっこいいって思うくらい毅然とした感じだしね…。」

「うん…。美夜って気が強そうに見えるけど…本当は箱入り娘のお嬢様で…。旦那さんが初めての人だったみたい…。だから、余計に傷ついて…。そこから極度の男性不信らしいわ…。」

「はぁっ…。それで…女性ばかりの会社を立ち上げて…恵美を恋人に選んだって言う訳か…。」

「そういうこと…。だから…孝宏が誘っても…たぶん乗って来ないわ…。」

頭を振って狩野の提案を否定する恵美。しかし、狩野は自信有りげに言う。

「誘いに乗って来るように出来る自信はあるけどね〜。それに恵美もわかったと思うけど…俺に抱かれたら…たぶん…墜ちるよ…?旦那さんしか知らない経験人数1人なら尚更にね…。」

「そ…そうかもしれないけど…。孝宏は…美夜を…抱きたいの…?」

嫉妬の色が濃く浮かんだ瞳で恵美が狩野を見てくる。狩野はそんな恵美に笑いかける。

「まぁ、興味がないとは言わないけど…。実は俺…無精子病って言う病気なんだ…。子ども作れないんだよ…。俺…。」

「えっ…!?ほ、本当に…?」

「もちろん本当だよ…。なんなら携帯に診断書の写真もあるから、後で見せるよ?」

「そう…それは…。」

なんと言っていいかわからず、言い淀む恵美。そんな恵美に狩野は言葉を続ける。

「若い頃にそれがわかって…。荒れに荒れたよ…。子ども出来ないなら結婚も出来ないって…。不思議なもんで…いろんな女性と中出しし放題♡なんて気持ちにはなれないんだよね…。とにかく哀しくて…。」

「そうだったの…。」

「だからさ…、まともに女性と付き合えないんだ…。どこか…冷めてたり…なんか…思考がねじ曲がったみたいにね…。」

恵美は今度は心配気に狩野を見つめている。

「だからさ…。恵美とも…付き合えるか…わからない…。恵美がキツそうだったから…誘ったけど…。単なる人助けの気持ちだったんだ…。幻滅した…?」

恵美は狩野の問いに答えず、しばらく無言のまま、俯き、揺れる水面を見つめていた…。

たっぷり5分以上、無言のままでいた恵美はやがて覚悟を決めたように一つ頷き、口を開く。
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