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放課後のマドンナ
第1章 転校生

「彼女はクラス委員長として
編入生徒の僕に校内を案内してくれただけだよ」
「本当がい?」
「ああ、もちろん本当さ
だって、彼女は僕のタイプでもないからさ
安心しろよ」
淳一の本音だった。
彼は、どちらかというと
担任の保坂恭子に一目惚れしていた。
夕闇が迫り、
学校を後にする頃には
淳一はクラスの男子生徒と意気投合し
肩を組みながら下校するほどに親しくなっていた。
淳一がすっかりクラスに馴染んだ初夏の頃、
放課後の教室には開け放した窓から、
初夏の匂いのする風と
部活動に励む女子生徒達の声が入ってくる。
「淳一くんが再テストなんて珍しいね。
まぁ、小テストだから
成績にそこまで影響しないんだけど…
何かあった?」
高校2年生の淳一は、
古典の担当教師で担任の26歳の保坂恭子と
今日の授業で行われた小テストの再テストを受け、
その後机に向かい合う形で話をしていた。
成績優秀でスポーツ万能…
以前の高校とはレベルの違うここでは
彼の実力なら再テストを受けるような点数を
決してとるはずがなかった。
そんな淳一が再テストなんて…
どうしたのだろうと恭子は少し心配げな顔をした。
淳一は少し困ったような寂しそうな表情で、
解答用紙から恭子に目線を移した。
「…恭子先生と一緒に居たかったから…」
「…え?どうゆう…」
「冗談ですよ。
ただ今日のテストは体調が悪くて
集中できなかっただけですから」
さっきの表情が嘘みたいに、
淳一は屈託のない笑顔を恭子に見せた。
「そうだったの…あんまり無理しないでね?」
体調が悪いことさえ見抜けなかったなんて…
私、教師としてはまだまだね…
再テストの採点をしながら
保坂恭子は自分のいたらなさを恥じた。
「なぁ~んてね、嘘ですよ。
僕は、ただ単に先生と
一緒にいる時間が欲しかっただけですから」
「何、言ってんの…。
先生をからかわないで、怒るわよ」
真剣に怒ってはいないのだと
笑顔を作って恭子は言った。
「先生、作り笑顔下手すぎだよ」
ふっ、と笑ってから
淳一は恭子に顔を近づけた。
お互いが相手の瞳の中に映るほどに
その距離は近かった。

