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愛とは違う
第1章 治らなければいいのに

廊下から足音が近づいてくる。
ヒソカはぴくりと眉を上げて、俺を片手で抱き上げると素早く窓にジャンプした。
燦に手を掛けて、後ろ向きに飛び出した瞬間、扉が開いた。
「ゴン!」
叫んだレオリオの後からキルアが部屋に飛び込む。
揺れるカーテン。
落ちたフォーク。
リンゴの並んだ皿。
ゴンの姿は無かった。
「くっそ。なんでヒソカ見たときにもっと早く知らせなかったんだよ!」
「うるせーな。しかたねーだろ。クラピカと電話してたし、お前もゴンの様子見てから来るって言うし。てかそのときに気配くらい感じなかったのか」
キルアの瞳孔が開きかける。
手の関節を鳴らしながら。
「おいおい。ヒソカが絡むとお前らしくなくなんぞ」
「……あいつキライ」
ふうっとため息を吐いて脱力する。
それから空のベッドを見る。
抵抗の跡もねえじゃん。
ゴン。
「ヒ、ヒソカっ? 降ろしてっ」
脇に抱えられてそのまま街の屋根を駆けていく。
声に気づいたのか、ぐるんと上体を起こされて両手で抱き抱えられた。
「なにか云った? お姫様♥」
「なんでお姫様抱っこなの! 降ろしてっていってんのに……」
一瞬だった。
レオリオの声と足音がオレの耳に入ったときにはもう、窓に向かって。
何が起きたのかわからなかった。
「ヒソカ、なんで?」
広場の時計台を見下ろすひときわ高い建物の屋上で、立ち止まった。
不意にそっと降ろされる。
本当に逞しい腕。
つい見てしまう。
「んー、何でだろうね♦」
しゃがんだまま、オレと目線を合わせて。
「あそこでサヨナラだと、少しつまらなかったから? かな♠」
「え?」
さあっと気持ちいい風が吹く。
紅い煉瓦屋根が連なる背景に、ヒソカの髪が映えて。
「どしたの、ゴン♥ 見とれちゃった?」
「えっ! ちが!」
やばっ。
顔真っ赤だ、今。
「ヒソカはさ、普段どこにいるの?」
「うん?」
「いやその、だって……今日みたいにいきなり来てさ、キルア達が来たら消えちゃうじゃん。いつも。そうじゃなくて、オレは、ちゃんとヒソカに会いたいって言うか」
「ゴォン? なんで急にそんな可愛いこと云い始めたの♦」
「だって! だって……ヒソカがつまらないとか言うから」
ぽんと頭を撫でられる。
長い指で。
くすぐったい。
「急にいなくなんないでよ……」

