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坊ちゃまと執事 〜或いはキャンディボンボンの日々〜
第1章 かくも愛しき田園の一日

「…なんとまあ、気の強い薔薇の精だ…」
リヒャルトは肩を竦め、笑った。
椅子に腰掛けたまま、窓硝子越しに中庭を眺める。
アルフレッドと共に、オスカーがアーチ型の薔薇の回廊を渡り、西翼に行くのが見える。
薔薇の生垣に立ち止まり、嬉しそうに花を眺めるアルフレッドをオスカーは別人のように優しく見つめていた。
アルフレッドが白薔薇を一輪手折り、オスカーに差し出す。
オスカーはリヒャルトが妬けてしまうような甘い笑顔を見せ、薔薇を上着のボタンホールに飾った。
窓硝子越しに、リヒャルトとオスカーの目が合う。
オスカーは、ちらりと艶めいた眼差しのみをリヒャルトに寄越し、そのまま美しい後ろ姿を見せるとアルフレッドと共にその場を立ち去った。
リヒャルトは薄く笑い、少し冷めたお茶を啜る。
そして、あの日のことを思い出す。
リヒャルトがウィルトシャーの村を訪れたのは三年前のことだった。
ベルリン大学で世話になったグラント教授から、自分はソールズベリー伯爵の子息の主治医をしているのだが、高齢の為、続けることが難しくなった。
ついてはその後任にならないかという手紙を受け取ったからだ。
パリで大失恋したリヒャルトは母方の実家があるロンドンに滞在していた。
…失恋の傷を癒すには、イングランドのカントリータウンはもってこいだな…。
リヒャルトは愛車のフォードを操り、イングランドの片田舎に向ったのだ。
ウィルトシャーは古き良き美しき村だった。
薔薇の生垣が見事な小さな教会の傍に車を停める。
グラント教授の診療所を尋ねるためだ。
車を降りようとしたその時だった。
薔薇の生垣の向こうから、信じ難いような怜悧な美貌の青年が現れた。
艶やかな黒髪、透明な眼鏡の奥の碧の瞳、鼻筋は神が彫刻したように完璧で、形の良い唇は春先のベリーのような瑞々しい色だった。
すらりとした長身…。
手足が長く、歩く姿は無駄な動きが一切なかったが、受ける印象は優雅で辺りを払うようなオーラがあった。
リヒャルトの目は思わず釘付けになる。
27年生きてきて、これほどに美しい青年は見たことがなかった。
しかもこんな鄙びたカントリータウンでだ。
リヒャルトの車の横を通り過ぎる青年と、一瞬目が合う。
…が、リヒャルトの熱い眼差しをものともせず、彼はすぐに視線を外すとリヒャルトの目の前を風のように通り過ぎた。
リヒャルトは肩を竦め、笑った。
椅子に腰掛けたまま、窓硝子越しに中庭を眺める。
アルフレッドと共に、オスカーがアーチ型の薔薇の回廊を渡り、西翼に行くのが見える。
薔薇の生垣に立ち止まり、嬉しそうに花を眺めるアルフレッドをオスカーは別人のように優しく見つめていた。
アルフレッドが白薔薇を一輪手折り、オスカーに差し出す。
オスカーはリヒャルトが妬けてしまうような甘い笑顔を見せ、薔薇を上着のボタンホールに飾った。
窓硝子越しに、リヒャルトとオスカーの目が合う。
オスカーは、ちらりと艶めいた眼差しのみをリヒャルトに寄越し、そのまま美しい後ろ姿を見せるとアルフレッドと共にその場を立ち去った。
リヒャルトは薄く笑い、少し冷めたお茶を啜る。
そして、あの日のことを思い出す。
リヒャルトがウィルトシャーの村を訪れたのは三年前のことだった。
ベルリン大学で世話になったグラント教授から、自分はソールズベリー伯爵の子息の主治医をしているのだが、高齢の為、続けることが難しくなった。
ついてはその後任にならないかという手紙を受け取ったからだ。
パリで大失恋したリヒャルトは母方の実家があるロンドンに滞在していた。
…失恋の傷を癒すには、イングランドのカントリータウンはもってこいだな…。
リヒャルトは愛車のフォードを操り、イングランドの片田舎に向ったのだ。
ウィルトシャーは古き良き美しき村だった。
薔薇の生垣が見事な小さな教会の傍に車を停める。
グラント教授の診療所を尋ねるためだ。
車を降りようとしたその時だった。
薔薇の生垣の向こうから、信じ難いような怜悧な美貌の青年が現れた。
艶やかな黒髪、透明な眼鏡の奥の碧の瞳、鼻筋は神が彫刻したように完璧で、形の良い唇は春先のベリーのような瑞々しい色だった。
すらりとした長身…。
手足が長く、歩く姿は無駄な動きが一切なかったが、受ける印象は優雅で辺りを払うようなオーラがあった。
リヒャルトの目は思わず釘付けになる。
27年生きてきて、これほどに美しい青年は見たことがなかった。
しかもこんな鄙びたカントリータウンでだ。
リヒャルトの車の横を通り過ぎる青年と、一瞬目が合う。
…が、リヒャルトの熱い眼差しをものともせず、彼はすぐに視線を外すとリヒャルトの目の前を風のように通り過ぎた。

