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坊ちゃまと執事 〜或いはキャンディボンボンの日々〜
第2章 お茶会狂想曲
翡翠湖はソールズベリー家が治める領地の最北端にある。
なだらかな丘陵に抱かれ、森林に囲まれたこじんまりとした天然の湖だ。
近くには小さな村があるだけで、観光名所でもないので普段から人気はない。
湖自体も直径200メートルにも満たない小さな湖だ。

車から降りて翡翠湖に近づいたフレデリックはまじまじと湖を凝視し、鼻を鳴らした。
「…なんだ、随分小さな湖だな。…これじゃあ湖と言うより池だ」
アルフレッドはオスカーの手を借りながら、湖を見ないように車を降りる。
「…だから言ったじゃないか。たいした湖じゃないって…」
言い返すものの、背後の湖が怖くて声に力が入らない。

「…翡翠湖って言うからどんなにか透明で宝石みたいに綺麗な湖かと思ったら…なんだか魔女の薬湯みたいな色だ」
小馬鹿にしたように言うフレデリックに、オスカーは和かに
「普段はもう少し透明度が高いのですが…。昨夜降った雨で湖が濁ってしまったようですね」
と説明する。
「ふ〜ん…」

アルフレッドは一刻早く湖の側から離れたくて、オスカーを急かす。
「オ、オスカー…早く行こう…。お茶はできるだけ湖から遠いところで飲むよ…」
「大丈夫ですよ。トーマスが快適な場所に天蓋を建ててくれていますからね」
オスカーはアルフレッドに母親が慰めるように優しく言葉をかける。

「…どんだけbebeちゃんなんだか…」
フレデリックが呆れて肩をすくめる。

そこにリヒャルトが両手を広げ、目を輝かせながら近づいて来る。
「おお!我が薔薇の精よ!…翡翠の如く美しい湖の側に佇む君のなんと麗しいことか…!イギリスの緑、湖の翠、そして君の瞳の碧…!…キャンバスを持って来るべきだった!…そうしたら君の美を永遠に描き留めておくことが出来たのに…。もちろんオールヌードで…痛ッ!」
オスカーの肘鉄を喰らい、リヒャルトは草原に崩れ落ちる。
フレデリックはオスカーの容赦ない早業とリヒャルトの素っ頓狂な言動に目を丸くする。
「…変わったドクターだな…」

オスカーは虫も殺さぬ優美な笑顔を作ると、天蓋が設営された敷地へと促す。
「さあ、アルフレッド様、フレデリック様、どうぞこちらへ。温かいお茶とサンドイッチで一休みいたしましょう。…変人のドクターはお気になさらずに」
さっさと踵を返すオスカーをリヒャルトは地面に倒れ込んだまま恨めしそうに見送った。
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