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坊ちゃまと執事 〜或いはキャンディボンボンの日々〜
第2章 お茶会狂想曲
「君みたいに甘ったるいキャンディボンボンで出来たような坊ちゃまには到底わからないさ。世の中は善意だけで成り立っている訳じゃない。好意を向けられたからってそれが全て心地いい訳じゃない。好きなんて気持ち自体一瞬のまやかしさ、未来永劫続く訳じゃない。…愛だ恋だ騒いで結婚したって、子供がいたって、いつの間にかお互い憎しみ合い、罵り合うんだ。…僕の両親みたいに…!」

フレデリックは自分の言葉に息を呑む。
「…フレデリック…」
アルフレッドは胸を突かれ、言葉に詰まる。
誰かが口を開く前に、フレデリックはその場から湖の方へと駆け出した。

「フレデリック様!」
オスカーがフレデリックを追いかける。
一瞬だけ立ち止まり
「ドクター、アルフレッド様をお願いいたします」
とリヒャルトに丁重に頼み、再び駆け出した。

「オスカー!」
アルフレッドは途方に暮れたように呟く。
「…どうしよう…。僕、フレデリックの気持ちも知らないで、無神経な事ばかり言っちゃった…。フレデリックのご両親は離婚協議中だったのに…」
リヒャルトは兄のような優しい眼をして、アルフレッドを見つめる。
「…貴方は本当にお優しい…」
「優しくなんかないよ。…僕はフレデリックにつんけん怒ってばかりだった。…フレデリックがオスカーを独り占めしようとするのが許せなくて…。
フレデリックが僕を赤ちゃん扱いして揶揄うからついイライラして…。
さっきのことだって…。僕は人に好きと言われたらただただ嬉しいから…つい考えなしに…」
しょんぼりと俯くアルフレッドの肩を優しく抱く。
…純粋無垢な少年…。
綺麗なものや優しいものや温かいものだけを詰め込まれて出来た美しい砂糖菓子のような少年…。

リヒャルトは少し、アルフレッドに夢中になるオスカーの気持ちが分かったような気がした。
「大丈夫ですよ。フレデリック君は全て分かっていますよ。アルフレッド様の優しさや素直さを…。
全て分かっていて…それでもつい、言ってしまいたくなる時があるんです。…貴方が羨ましくて…」
アルフレッドは不思議な顔をしてリヒャルトを見上げる。
「…僕が羨ましい?」
「…ええ…」
…かく言う私も…
と、リヒャルトはウィンクする。
「貴方が羨ましい」
アルフレッドは瞬時に何かを悟り、リヒャルトを睨む。
「…オスカーはあげないからね!」
リヒャルトの笑い声が湖畔に響き渡った。
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