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坊ちゃまと執事 〜或いはキャンディボンボンの日々〜
第2章 お茶会狂想曲
ココアを飲み終わると、フレデリックが湖畔を散歩し出した。
無邪気に後を付いてくるアルフレッドに、そっけなく呟く。
「…君、水が大丈夫になったみたいだな」
アルフレッドが目を丸くして驚く。
「本当だ!なんだかもうあんまり怖くないや!」
フレデリックはにやにやしながらウィンクする。
「ようやくbebeちゃん卒業だな」
「ありがとう!フレデリックのおかげだよ!」
アルフレッドは苦手が克服されつつある嬉しさから、まるで子犬がじゃれつくようにフレデリックに飛びついた。
「…ちょっ…!べたべたするなよな。…僕は甘えられるのが嫌いなんだからな」
嫌そうな貌をするフレデリックだが、飛びついたアルフレッドの腕を払いのけたりはしない。
うんざりしながらもされるがままになっている。

二人の光景を見ながら、オスカーは嬉しそうに微笑む。
「…良かったです。…アルフレッド様はこれでひとつご成長されました…」
「アルフレッド様は素直な心根の優しいお方だからね。
これを機にまた世界が広がるな」
リヒャルトの言葉に、オスカーは嬉しそうな…しかし少し寂しそうな貌をした。
「…ええ、そうですね。…アルフレッド様の前には前途洋々たる未来が広がっているのですから…」
リヒャルトは頬づえをつきながら、オスカーを優しく見る。
「…寂しい?」
オスカーが美しい碧の瞳でちらりと見遣る。
「…貴方はうんざりするほど勘がいいですね」
「愛する人の胸の内には敏感なのさ」
人好きする目元でウィンクしてみせるリヒャルトを無視して、ぽつりと呟く。
「私はアルフレッド様が健やかにご立派にご成長あそばされるのを一番の願いとしてお仕えしております。…私の感傷など取るに足らないことです…」
リヒャルトは大きく伸びをしながら呑気に答える。
「どんなに成長されても、アルフレッド様の心の拠り所は君さ。心配するな」
オスカーは、不意にかけられた温かい言葉に驚き、隣の華やかな美貌の医師を見上げた。
「…しかし今日は良い日だったな。…美しき英国の湖、刺激的なハプニング…そして、我が麗しの薔薇の精のセミヌード…」
オスカーは切れ長の美しい碧の瞳を見開く。
「…覗き見したんですか⁈…最低…!」
冷たく言い放つと、黙ってリヒャルトの磨き上げられた革靴を思い切り踏んづけた。

静かな昼下がりの湖畔に男の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもないことであった。
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