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坊ちゃまと執事 〜或いはキャンディボンボンの日々〜
第3章 ドクター・アーレンベルグの恋
「…いい加減素直になりたまえ。…君は本当は私を求めているのだよ。その減らず口や冷たい態度は私への愛情の裏返しだ。…オスカー…、私はあの教会の薔薇の垣根の前で君を見た瞬間に恋に落ちたのだ。
…エメラルドのように光り輝く瞳、艶やかな黒髪、人形のように整った冷たくも美しい貌…」
リヒャルトはオスカーの艶やかな黒髪を撫でる。
陶器のように白く滑らかな肌を撫で、その形の良い顎を持ち上げる。

リヒャルトは眼を見張る。
「…いや…宝石よりも美しい碧の瞳だ…。人を魅了し、惑わす危険な瞳…魅入られた者は最後、君の愛の奴隷と化す…」
リヒャルトの唇がオスカーの唇に重なる寸前、リヒャルトは周囲に響き渡るような派手な声を上げ、その場に倒れこんだ。

オスカーの華麗な膝蹴りは見事にリヒャルトの鳩尾に命中していた。
オスカーは眉ひとつ動かさずに、のたうちまわるリヒャルトを見下ろす。
「…全く…。貴方はガラパゴス諸島の大蜥蜴と一緒ですね。…永遠に進化を遂げない生命体…」
そして、お辞儀だけは優雅に恭しくやってのけ、踵を返して屋敷の中に入っていった。

「…ガラパゴス諸島の大蜥蜴か…言い得て妙だ…」
リヒャルトは可笑しそうに笑いながら、腹を摩りながら起き上がったのだった。
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