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坊ちゃまと執事 〜或いはキャンディボンボンの日々〜
第3章 ドクター・アーレンベルグの恋
リヒャルトは、まだ動揺を抑えきれずに椅子に掛けることもできないアンドレアを、じっと見つめた。

…美しい金髪、空色の瞳、繊細な鼻梁、形の良い薄紅色の唇…。
かつて心から愛した最愛の恋人が、目の前に魔法のように現れたのだ。

「…久しぶりだな、アンドレア…。君は相変わらず美しいな…」
…こんな不器用な言葉しか出てこない自分が情けない。
もし、アンドレアに再会したら…
言いたいことはたくさんあった。
伝えたいことはたくさんあった。

だが、実際には…
言葉は無力で、リヒャルトはただ彼の美しい貌を見つめるだけだった。

アンドレアは怯えたようにリヒャルトを見上げた。
その眼差しにリヒャルトはショックを受ける。
「…君がアルフレッドの主治医だったとはね…。世間は狭いな…」
笑おうとした唇はひきつれたまま…上手く行かずにアンドレアは溜息を吐く。
アンドレアの気持ちを和らげようと、リヒャルトは陽気に笑う。
「私と会って実に嬉しくなさそうだな、アンドレア。…ああ、そうか。さっきいたご令嬢と婚約しているのか。…私がかつての君との仲をフィアンセ殿に暴露するとでも?
…そこまで私を信用してないのか…。そんなことするわけないじゃないか」
リヒャルトはアンドレアの肩に手を掛けた。
アンドレアの美貌が強張る。
「…リチャード、この際言っておく。私はもう、かつての私ではない。君と恋人同士だった私はもうどこにもいないのだ」
リヒャルトの華やかな貌が一瞬にして曇る。
「アンドレア…」
アンドレアは懇願するようにリヒャルトを見つめる。
「…君にも分かるだろう?ここはパリではない。同性愛者と分かれば罪になるような国だ。…ましてや私は弁護士だ。…汚点となるものは一つとして残せないのだよ」
「…汚点…ね。…私と愛しあったことは君には汚点なのか…」
傷ついたような自嘲するような笑いを浮かべ、腕を組む。
「…リチャード。分かってくれ。私はセシリアと結婚するんだ。彼女に君との仲を疑われるようなことは絶対に避けなくてはならないのだ」
とりなすようにリヒャルトの貌を見つめるアンドレアの腕を掴む。
びくりと怯えたように身体を震わせるアンドレアを壁に押し付ける。
「私を振ってあんな平凡な雛菊みたいな女と結婚するのが君の幸せか⁈…随分つまらん人生だな」
リヒャルトは嘲笑う。
アンドレアの空色の瞳が怒りに燃える。
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