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蜜愛~男になった女~
第8章 番外編【櫻の系譜・壱~雪時雨(ゆきしぐれ)~】 弐

長儀子は深い吐息を洩らした。弥生も末のこの季節になると、日毎に春めいてくるような気がする。北国の春はゆっくりと訪れるが、それでも陽差しの中にふと温もりを感じ取る瞬間があるのだ。
長儀子は縁に座り、ぼんやりと庭を眺めていた。今は住む人もおらぬこの部屋は、かつて三代藩主信純を想い続けて亡くなったお千世の方が起居していたという。〝高嶺桜〟と呼ばれる遅咲きのこの桜が開き始めるのは、まだ半月以上も先のことだ。
長儀子は縁に座り、ぼんやりと庭を眺めていた。今は住む人もおらぬこの部屋は、かつて三代藩主信純を想い続けて亡くなったお千世の方が起居していたという。〝高嶺桜〟と呼ばれる遅咲きのこの桜が開き始めるのは、まだ半月以上も先のことだ。

