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凍てつく湖
第2章 ブラックボックス
確かにその信号は青に変わっていたのだが、、
「ったく!ちゃっちゃっと行きなさいって!」
その大きな掌はハンドル付近で止まる。無駄なクラクション一つて命を落とすご時世だ。
「、、やれやれ」
助手席に座るクノール委託社員 落合玲子は相変わらず気が短いクノール社長 神谷賢治とそのご時世とやらに本気で呆れている。
「社長。大丈夫ですよ。ネタは逃げやしませんから」
「で、そっちはどう?」
スタジオ「ブラックボックス」から配信されている映像は画質は粗く、音声途切れがちだが玲子のタブレットに届いていた。
「今、例の渡辺三郎が楠木さんに挨拶してますよ」
ようやく前の車が動き出し二人を乗せた白いトヨタ アルファードは新宿区を抜け豊島区に入る。
「ふーん。いよいよだな」
神谷はアクセルを踏み込んだ。
「楽しそうですね」
「分かる?ワクワクするねぇ!殺人の告白だとよ!」
神谷は生粋のテレビマン。元々は在京局の名物プロデューサーであり、今も語り継がれる数々の番組の仕掛け人でもあった。
「で、肝心要。映像を売るアテはあるんですか?」
「、、ない!まっ、内容によりきりだな!」
右折へとウインカーを出した神谷は笑う。
「、、確かに」
「冤罪だと尚更厄介だな、、」
「、、ですよね」
「まずお上は認めん、、それどころかウチは睨まれてあっという間に破滅だよ」
お上とは言うまでもなく警察だ。
「、、、、」
「時代は変わったよなぁ、、最悪、、俺の酒の肴だな。にしても玲子ちゃんは持ってるねぇ」
「はぁ?」
「ひょっとしたらジャーナリストとして返り咲けるかも知れないよな。巡り合わせとはいよいよ不思議だねぇ。これも一種の才能だよな。才能!よっ!天才ジャーナリスト!」
「、、到底鵜呑みには出来ませんよ」
「で、是非とも君の意見を聞きたいね」
「、、確実に言えるのは人は簡単に胸の内を曝け出せない。というよりは出来ない」
「同感だ。人はいかなる場合もどこか格好つけてそして記憶をねじ曲げる。俗に言う、、ん? そう、、思い出補正か」
「しかも無意識がゆえ、、それが更に問題で妙な説得力があるのよ。だから一方的な言い分は危険ね」
「いよいよ経験者は語るねぇ」
神谷は魅力的な笑顔を見せる。
「だからね、これ以上の経験はもうしたくはないのよ。出来れば関わりたくはなかった、、かな?」