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眩惑のディナーショー
第8章 七人目の御客様…どうぞ
「待て──」
低く深みのある声音。呼び止められて取り立て屋はあん?と顔を上げる。
「なんだテメェっ」
「その女の借金は俺が払う」
「──…っ…」
男の言葉に一瞬目を見開いたが直ぐに笑い出していた。
「おう、兄さんよ…どこのボンボンか知らねえが払えんのか? 二億四千万だぜこの女の借金」
「二億……」
「はっ、見てみろビビってんじゃねかっ」
金額を呟いた男を見て取り立て屋はバカにしたように騒ぎ立てた。だが男の顔色は呟いただけでなに一つ変わってはいない──
そして逆に取り立て屋達をふっと笑っていた。
「生憎だが今、現金の持ち合わせがない──」
余裕の笑みを浮かべた男に思わず怯んだが、その言葉を聞いて取り立て屋は形相を変えていく。
「おい兄さんよ、バカにするのもいい加減に──」
そう言いかけた言葉を遮るように、男は脇に置いていたアタッシュケースをカウンターに置いて中を開いた。
「──…っ…」
中身を確認して取り立て屋は唾を飲む──
男はその様子にまた軽くふっと口角を緩めてサングラスを指先で直した。
「換金すれば三億はある──…」
「さっ…」
「今すぐ立ち去るなら全部くれてやるが──…どうする」
ケースの中の純金の延べを見て手が震える。
「これで、この店から一切手を引くか? どうするか直ぐに決めろ──」
そう言って見据える男に取り立て屋はパッと顔を変え、借用書に弁済の赤判を押して愛想良く消えていった。