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眩惑のディナーショー
第16章 花魁道中
「おい、あれは何の祭り事だ?」
籠の覗き窓からちらりと布を捲って見えた景色に男は低く深みのある声で尋ねていた。
「ああ、アレですね。はは、あの娘は菖蒲といって花魁になって半年経つんですがね、あの調子なために一向にご贔屓してくれる旦那が付かないようで……」
「あれも花魁か……」
「ええ、一応……」
肩に担いでいた籠を下に降ろすと苦笑いしながら籠屋は応えていた。
着物の裾を託し上げたまま足を開いて仁王立つ。
その後ろ姿を眺めて男は微かに笑みを浮かべた。
「じゃ、アサドの旦那! 着きましたよ」
「ああ、御苦労だったな。これは下駄代だ、とっておけ」
「えっ!?こんなに!?──」
アサドは運び賃とは別に籠屋に小遣いを渡して背を向けた。
遊廓「茶魅泉(ちゃみせん)」の横にある金魚すくいの出店の前から立ったまま離れない菖蒲の背後にアサドは立つ。
「大事な商品がそう簡単に肌を露出しては不味いだろう? 違うか?」
「──…っ!…」
太股をさらりと撫でられて、菖蒲は悲鳴よりも咄嗟に手が飛んでいた。
「おっ──…」
アサドは素早くそれを交わして菖蒲の腕を取る。
「なるほど、九重がじゃじゃ馬の妹分が一人いると言っていたが、お前のことだな……」
アサドはそういって楽しげな笑みを浮かべる。
振り向いて見上げた菖蒲の目に映ったのは茶褐色の肌、そして魅惑的な深い黒曜石の瞳──
白いシャツに茶色いスーツのベストを着込んだ異国の男が顔を覗き込んでいた──
すっきりと出した形のいい耳元が、端正な顔立ちを際立たせる。
“亜羅舞からの大事なお客”
この人だ──
菖蒲はアサドを見上げ異国のの雰囲気を纏うエキゾチックな顔立ちにゴクリと喉を鳴らしていた。