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眩惑のディナーショー
第16章 花魁道中
「堅い挨拶は抜きでいい、そのまま入れ──」
襖を隔てた向こうから、そう声が響いた。
菖蒲は頭を下げたまま、すーっと襖を静かに開けて、腰を低くしながら部屋へ入る。
目の前に正座して顔を上げないままの菖蒲にアサドはふっと口端に笑みを浮かべた。
下を向いたままだが頬が赤らんでいるのがよくわかる。
「緊張しまくりか? さっきの威勢はどこにいった?」
笑いながらアサドは目の前にいる菖蒲の顎に手を添えた。
「……っ…」
顔を上げさせられて、覗き込まれる──
座椅子に長い足を崩して座る、異国の男。
菖蒲は慣れないその男の風貌に目を釘付けられていた。
アサドは軽くほう、と感心したような声を漏らした。
「じゃじゃ馬でもそんな顔ができるか? 流石は廓の女だな…」
くくっと半ばからかうような口振りでアサドは笑う。
菖蒲は耳まで真っ赤になって顎に触れていたアサドの手を払い退けた。
「──…っ…」
その途端、妖しげな笑みを浮かべていたアサドの表情がスッと変わる。
「なるほど、心はやはり暴れ馬の雌ってところか──」
「……っ…」
「ならばいい、それなりに扱ってやる」
「───…」
「暴れ馬の扱いは得意だ──」
不敵な笑みを向けて立ち上がったアサドは手元にあった赤い襷(たすき)の紐を手にしていた。