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一度きり
第1章  
その少し後、彼女が自分で言っていた赤い軽自動車で着きました。
車から降りた彼女は、背が小さく、ほっそりしていて、短めの髪は茶髪でした。
でも派手には見えませんでした。
ジーンズをはいていましたが、やはり雰囲気がどことなく“女将さん”と言う感じがしました。
私より10歳も年上には見えませんでした。
私は少し安心しました。
変な人じゃなくて。
もちろん、彼女も同じ心配をしていたでしょう。
「はじめまして……百合さん?」
「はじめまして……洋平さん?」
私は笑顔でうなずきました。
そして彼女も私ににっこり微笑んでくれました。
二人とも、どぎまぎしながら、とりあえず私の車でドライブすることになりました。
緊張していて、今ではどこをどう走ったか、覚えていません。
ただ最後に、郊外の高台にある、人気のない神社の駐車場に辿りついたのは覚えています。
そこに着いたときには、もう真っ暗でした。
車のライトを消すと、何も景色は見えませんでした。
ただ木々の間から街の夜景が望めました。

車のフロントをその夜景に向けて、二人で車の中で話をしました。
もうメールで家族のこと、仕事のことなど、相手が自分の実生活に関係ない分、他の人に絶対話さない内面のプライベートなことまで話してきましたから、もう昔から知っているような間柄みたいでした。
でも、だんだん、沈黙の時間が増えていきました。
私はたぶん、彼女も“そう望んでいる”と思いました。
こんなところまで来たのに、何も拒否反応らしいしぐさは見られませんでしたから。
もう、打ち解けた仲です。

私は緊張していました。
でも、しなきゃいけないと、思っていました。
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