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―不還―
第7章 暗闇の中…一筋の安寧 1
「兵長…よかった…苦しそうにしているのに、
中々目を覚ましてくれないから……」

そう呟くとエレンはリヴァイの頬に手をやり、
親指で口唇の血を軽く拭った。

「口唇切れちゃってますね、このハンカチ綺麗なんで、
これで拭って下さい」

エレンは柔らかいハンカチをそっとリヴァイの口元に宛てがった。
覚醒したばかりのリヴァイは、
まださっきの暗闇に居た嫌な感覚が身体にリアルに残っている。

そして何故今、エレンが自分の目の前に居るのか。
表情には出さないが、少々混乱していた。

リヴァイはエレンに何か言おうとしても、
俯いたまま言葉に出来ないでいた。

宛てがわれたハンカチに手をやると、
エレンの熱を少し帯びた指が触れる。


「兵長…本当に大丈夫ですか……?」


エレンは小さく震えているリヴァイに気がついていた。
触れた指先からもほのかに伝わってくる…
身体も強ばっているように感じた。

この人は遠征の度、部下を失う度、

独り夜中にこうやって苦しんでいたのか……

血が出るまで口唇を噛み締めて……


そう思うととてもじゃないが、
自分の話など切り出す気が起きなくなった。


普段は小柄でも、その強さから大きく見えていたリヴァイが
今はとても小さく見えてしまう。
俺はこの人に何をして上げられるのだろう。
指先からまだ震えを感じる。
リヴァイはまだ何も応えてくれない。
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