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マスター・ナオキの怪店日記
第14章 今宵もグラスを傾けて
9月に入ってもまだ気温の高い夜が続いていたので、連日閉店時間までぎりぎりまで、客達が暑さをしのいでいた。
その日はめずらしく、10時過ぎには客が引き始め、10時半には誰もいなくなった。
こんな夜は、また霊のお客様がいらっしゃるかな。今までのパターンはこの状況だったから、尚樹はほんの少し身構えて、グラスを洗い続けた。
ギイと音をたててドアがゆっくりと開いていく。来たな、と蛇口をひねって水を止め、姿勢を正してドアを見つめる。
入ってきた人物の顔を見て、尚樹の頬は熱っていった。
「信彦さん、照美さん・・」
二人は並んで、尚樹に向かって深々と頭を下げた。
やっと、戻って来てくれた。
その喜びと、この半年余りの彼らの大変な日々を想うと、次第に目の周りが熱くなる。
顔を上げた信彦と照美も尚樹と同じように、目を潤ませ唇をキュッと結んでいた。
その様子を見て、信一の事を尚樹が知っていると二人はわかっているのだと思った。
第一声がなかなか出てこない長澤夫妻に、尚樹は目いっぱい明るい声を張り上げる。
「おかえりなさい!待ってましたよ」
懐かしい尚樹の声を聞いて照美は大粒の涙をこぼし、それに続くようにして信彦も細く涙を流した。