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マスター・ナオキの怪店日記
第4章 三島さんの再会
「こんばんは」
少しひんやりとした空気と共に店に入ってきたのは、三島さんだった。
街路樹の落とし物、枯れ葉が奏でたかすれた音はすぐに消えて、三島さんが手をこする音がかすかに聞こえてきた。
「いらっしゃい。段々夜の冷えが身に染みるようになってきましたね」
尚樹の挨拶に肯きを繰り返しながら、三島さんはカウンターの端に座った。
いつものね、と、普段ならまず酒の注文をするのだが、今夜はめずらしく、聞いてよマスター、と話を先に始めた。
「昨夜、妻に会ったんだよ」
三島さんのその言葉は、尚樹の表情を固めた。 え?という短い言葉でさえ、出てこなかった。
三島さんの奥さんが亡くなってからかれこれ三年になろうとしているはず。それなのに、それなのになんで妻とあったなどと言うのだろうか。
話の意味を探ろうと、まずはいつもの酒、氷を浮かべた日本酒を黙って三島さんの前に置いてから、正面切って聞いてみた。
「三島さん、話が見えないっていうか、意味が解らないんだけど・・亡くなった奥様に会ったってことですか?まさか」
仁王立ちのようなポーズと能面のようなつるりとした表情の尚樹に向かって、少し笑いを含みながらそうだよと三島さんが返した。
死んだ人に会ったってことは、つまりは幽霊に会ったって事じゃないか。
幽霊?幽霊なんて本当にいるのか?世の中には信じる人もいれば信じない人もいる。後者の方が圧倒的に多いと思うし、尚樹自身も後者だと名乗りを上げる。
もしもこの相手が友達だったら、バカな事言ってんじゃないよ、夢でも見たんだろうとバッサリ切り捨てるだろう。だけど相手は三島さんだ。お店にとって大切な、年上の常連客。それに、大切な人を失った気持ちを理解してあげることのできない尚樹からは、否定の言葉を突き付けることはできなかった。